中小企業診断士の井上です。今回は中小企業診断士の独立についての話です。
中小企業診断士は他士業と比較して独立されている方は少ないです。
独立されている人も、社会保険労務士や弁護士、税理士など他資格とのWライセンス・トリプルライセンスで開業されているケースが多いです。
私の場合、メディアでの営業経験が長かったのでかなり多くの人と接点がありますが、養成課程に入るまで中小企業診断士として独立されている方はお会いしたことがありませんでした。
ある意味謎に包まれている独立診断士ですが、どのような形で独立されているか、独立に向けて準備しておいた方が良いと思われる事などを自信が持つ経験や繋がりから得た情報を元にお伝えしていきます。
1.独立に向けての準備(ハード編)
(1)メールアドレス:診断士はどんなメールアドレスを使っている人多い?
独立しようと考えた際、メールアドレスは不可欠ですが、実際中小企業診断士はどのようなアドレスで活動しているのでしょうか?
私が名刺交換させてもらったうちの60人の中小企業診断士のメールアドレスの種類を分類すると以下のようになりました。
結果を見ると、フリーアドレスやプロバイダーのアドレスが多い印象ですが、comや.jpのドメイン取得はさほどコストもかからない方法もあります。信用力も上がると思いますので個人的にはオリジナルドメインの取得をお勧めします。そのオリジナルドメインでは.jpを使われている方が多いです。取得されようとしている方は参考にしてみてください。
(2)ホームページ:診断士のHPの開設状況は?
弁護士事務所・税理士事務所など他士業のホームページは、見かけるけれども、中小企業診断士のホームぺージはあまりイメージできない人も多いと思います。
実際、中小企業診断士のホームページ開設状況はどうなっているのでしょうか。前項と同じく名刺交換した60人の状況が、以下になります。
HPあり | HPなし |
27人 | 33人 |
イメージしていたよりは多い気もしますが、HP有のケースでも簡易なものの比率が高い印象です。これは他士業に比べ民民契約の比率が低いことが影響しているのか知れません。
公的機関の仕事の受任者を決めるなどの際に、HPも参考にするという話も聞きますし、SNSなどからHPに誘引で民民契約に結び付けることも今の時代可能ですので、HPをしっかり作りこむことが差別化できる要因の一つとなると思います。
(3)名刺:診断士はどんな名刺を使っている人が多い?
中小企業診断士の名刺にはご自身の顔写真を入れているケースが多いです。
60人の内訳は以下の通りでした。
顔写真有 | 顔写真無 |
26人 | 34人 |
また、名刺にご自身の略歴や、得意分野などを記載されている方も多いです。
60人の内訳は以下の通りでした。
得意分野・略歴記載有 | 得意分野・略歴記載無 |
29人 | 31人 |
中小企業診断士の仕事は、他の診断士や士業の方から紹介も有力な受注ルートです。
その為に名刺でも顔写真で印象付けしたり、得意分野や実績を記載する方が多いです。
これは有効なアピール方法だと思いますが、どうしても情報量が多くなってしまい、デザイン的にはうるさくなってしまう感はあるので、配布する相手や状況に応じて、複数のデザインの名刺を用意するのも良いかなと思います。
(4)事務所:診断士、公表している住所はどんなものが多い?
中小企業診断士は、事務所事業はどうなっているのでしょうか。ここでも60人の名刺の記載住所を分析してみます。
自宅 | 記載無 | 専用事務所 |
31人 | 3人 | 31人 |
記載無の方はおそらく、自宅を事務所利用されているでしょう。また専用事務所の方もバーチャルオフィスやシェアオフィス、複数人で事務所を借りている、Wライセンスで他士業事務所も兼ねているというケースも多いです。
中小企業診断士は1人で活動されている人も多いのでこのような結果になったと思われます。
事務所を借りると固定費はかかりますが、自宅だとあまり作業が捗らない人もいるでしょうから、ご自身の状況に合わせて事務所をどうするか考えられると良いと思います。
(5)組織体:診断士はどのような組織体で仕事をしている人が多い?
中小企業診断士どのような組織体で事業を行っているのでしょうか。60名の内訳は以下のようなものでした。
個人事業主 | 株式会社 | 合同会社 | 有限会社 |
40人 | 15人 | 3人 | 2人 |
やはり、個人で活動されている方が多いので、個人事業主という形態が最多でした。
2番目に多かったのは株式会社ですが、こちらはWライセンスで他士業の業務も兼ねてというケースが多く見られました。
個人事業の場合であれば、税理士を入れずに自身で確定申告も可能ですが、会社化する場合は、税理士にお願いするのは避けられないかなと思いますので、その分月々の顧問料など固定費がかかってきたり、会社化することで社会保険料負担が増えたり、と個人事業主と比べて維持費がグッと増えますので、よほどじゃない限りは個人事業主からのスタートが無難です。
(6)SNS
中小企業診断士が良く使っているツールとして、Dropbox、Facebook(Meta)があります。
Facebook(Meta)は昔アカウントを使ってほったらかしという人も多いと思いますが、改めて運用を始めて、診断士同士の繋がりを強めるのも良いと思います。
診断士同士の繋がりは広いので、Facebookで数人とつながると自動的に色んな診断士の方がオススメに出てきて次々とつながるということも少なくないです。
また、最近ではX(旧Twitter)で自分の中小企業診断士専用アカウントを作成するのも手です。現在Xにはたくさんの診断士の方がアカウントを作って色んな投稿をされています。
時にはタメになる情報を投稿されている方もいたり、また、他の診断士のアカウントとフォローしあうことで新たな交友関係が広がって情報を交換し合えたり、時には仕事のお話をいただいたり、ということもあります。
FacebookもXも無料で使えるツールですので、こういったツールをうまく利用していきたいですね。
2.独立に向けての準備(ソフト編)
ここからは、中小企業診断士として独立するまでにやっておいた方がいいと思われることを上げていきます。
これらはどれが欠けても成功の可能性は減ると思いますので3つをバランス良くレベルアップしていくことが重要です。
(1)人脈作り・信用作り
中小企業診断士の仕事の受注は他の診断士や、士業の方、知り合いからの紹介というルートも多いです。
そのため、診断協会のイベントなど診断士が集まる会合に積極的に参加したり、過去仕事で付き合いのあった人達に接触するなどして人脈作りは独立前の段階から積極的にやっておきたいことです。
ただし、人脈ができたからといって即仕事に繋がるわけではありません。
後述するプロフィール作りやコンテンツ作り・得意分野の磨き上げなどを行い、どの分野の業務が行えるか仕事を発注する側に明確にイメージしてもらうことも重要です。また仕事を任せても大丈夫という安心感・信頼感を醸成していく振る舞いも必要です。
知り合いを増やしていくこと自体の難易度はさほど高くは無く、人脈作りだけに終始し仕事に繋がらないということになってしまいがちなので気をつけて下さい。
(2)プロフィール・コンテンツ作り
中小企業診断士は独占業務が無い為、自分から色々発信しないと自分の特性が理解されず埋没してしまう可能性があります。
また他の診断士からの仕事の依頼の場合、自分が専門でない領域の業務をお願いするケースも多く、得意領域を明確化したプロフィールは作っておいた方が良いと思います。
その際、より具体的にできる内容や、実績が書かれている方が発注側がイメージしやすく、振りたい案件が発生した場合、頭に浮かべてくれる可能性が高まるでしょう。ニッチな分野のものはニーズ自体は少ないですが、競合する人間も少なく、人脈作りをしっかりやっておけば、受注につながりやすいでしょう。
プロフィールをアピールするには、以下のような代表的なものはもちろんですが、
・名刺
・HP
・診断協会等に属す場合の会員プロフィール
名刺1枚〜2枚分くらいの小さい紙に自分の経歴や強み、できることなどプロフィールをまとめて記載し印刷した、「アピール用メモ」を作り、名刺交換の際に名刺と合わせて渡す、といった一手間加えたアイデアで初対面の相手であってもインパクトを残すことをされている方もいて、他の人がやらないこういう差別化されたアピールは相手の印象にも残りますし、効果的だなと感じました。
またセミナー的なものの依頼や、そこから派生して以降仕事もあり、いろんな案件に即座に対応できるようコンテンツを作りストックしておくこともお勧めします。
最初のうちはとにかくなんでもする気概で自身のプロフィールとして書けるよう実績をためていく姿勢は大事かなと考えています。
(3)得意分野の磨き上げ
先ほどのプロフィール作り・コンテンツ作りにもつながりますが、自分の得意分野の磨き上げも独立準備の段階で行っておいた方が良いでしょう。
中小企業診断士の業務は他の診断士だけでなく、他士業などと競合することも多く、非常にライバルが多いです。
少しでも差別化できるよう自分の実務経験のある業務領域を様々な業種に対応できるように研究したり、得意分野周辺の情報や知識を収集しておく事なども大切です。
今得意分野がないという方も、得意分野というのは誰でも作れますので、なんとなくこの分野に興味があるといった些細なきっかけでも勉強を重ね、チャンスがあれば積極的に手を挙げていくことで、得意分野にしていくことは可能です。
DXの導入が得意な方も、製造業診断が得意な方も、最初から得意だったわけではありません、誰でも最初はできないからのスタートになり、今できないこと=得意分野になれないこと、ではありませんので、チャンスが来たときに積極的に掴みに行けるように今、自身のできることをやっていくというのが大事になります。
3.独立後の主な仕事
ここでは中小企業診断士がしている主な業務について述べていきます。
(1)公的機関お仕事
国や地方自治体といった行政機関や関連期間、中小企業基盤整備機構、都道府県等中小企業支援センター、商工会議所・商工会など公的機関から「窓口相談」や「専門家派遣」などの公募がかかることがあります。
他士業も含めての募集というケースが多いです。公的機関の業務は独自で企業と契約するより単価が安いケースが多いですが、実績作りや、収入の安定化にはすごく適しています。 条件が良いものほど競争率が高くなるのは言うまでもありません。
(2)コンサル関連業務
中小企業診断士として本来一番メインとなってくるのがコンサル業務です。この業務の受注は自力で開拓しないといけないケースが多く難易度は高めです。受注パターンとしては
公的機関の仕事をきっかけに信頼を得て、民民でのコンサルティング契約になるケースや
得意分野でのサポートで実績を上げて、そこから経営全般のコンサルを依頼されるケースなどがあります。
個人的には伴走型の支援は重要だと思いますし、中小企業診断士向きの支援方法だと思いますので、これらが一般的になる世の中にしていきたいと思っています。
(3)補助金関連業務
様々な補助金の申請のサポートも得意としている中小企業診断士が多い分野です。
一口に補助金と言っても多くの種類があり、応募条件等も都度替わったりするので、真剣にやればやるほど専門性が必要になってきます。
コロナ禍で様々な補助金が作られたり、予算規模が変わったり、都度補助金を取り巻く状況は変化していますが、中小企業診断士として補助金業務だけに注力されている方も少なくありません。
(4)セミナー講師業
セミナー講師も、中小企業診断士でポピュラーな仕事の一つです。
セミナーをきっかけに他の業務や、違うセミナーの講師の仕事に繋がることもあります。こちらも実績が結構重要だったりしますので、受注できるチャンスがあれば積極的に手を上げることが良いと思います。
また、セミナー講師業ではありませんが、、診断協会や他診断士とのつながりで、執筆業を依頼されることもあります。
セミナーや執筆業(特に執筆業)では、それほど高単価な報酬が出るといったことはあまりありませんが、自身の知名度向上やブランド価値向上という副次的な効果に繋げていく姿勢で取り組んでいかれるのが良いです。
(5)その他
その他、大学など教育機関の教員や、企業の非常勤取締役などに迎えられたり、経験・知識・人脈などを活かして自ら事業を立ち上げるといったケースもあります。
独立初期でも比較的取りに行きやすい仕事は?
現在活躍されている、診断士の方でも独立当初は苦労したという方も多く、実績のないうちは取りやすい仕事というのはあまりないと考えていた方が良いと思います。
始めは既知の方やその方の紹介から仕事を始めるケースが多いと思います。
また診断士試験が実施されるエリアでは、試験監督の業務が診断協会から公募されますが、こちらは過去競争率があまり高くなく、取りやすい仕事と言えるかもしれません。
とにかく最初のうちは色んなチャンス・機会に対してあまり報酬を気にせず手を挙げていくことが重要です。そこから実績も生まれ、繋がりも生まれ、後のお仕事に繋がっていきます。
以上、簡単ではありましたが、診断士として独立を考える上で少しでもお役に立てましたら幸いです。
