【解説】災害対策マニュアル作成時のポイントについて

当記事では、災害対策マニュアルを初めて作る方向けに、自然災害への対策が常に必要なインフラ企業における30年以上の勤務経験、コロナ禍の対策時に出向する会社で総務担当役員として対応してきた経験から、助言を書かせていただきます。

企業におけるBCPの策定状況について

始めに企業における災害対策におけるBCP(Business Continuity Planning、事業継続計画)策定状況に関する調査結果を紹介します。
5年の調査結果から見て、BCPを「策定済」と回答した企業が20%未満であり、策定中、策定を検討中とする企業がコロナ禍初期である2020年を除き、ほぼ数値が変わらない状況から、日本企業におけるBCPの策定が途上段階であることが分かります。
〇企業におけるBCPの策定状況

調査年 裁定済 策定中 策定を検討中 策定していない わからない
2019 15.0 7.3 23.2 45.3 9.1 100
2020 16.6 9.7 26.6 39.4 7.7 100
2021 17.6 7.9 24.1 42.5 8.0 100
2022 17.7 7.6 24.6 42.1 8.0 100
2023 18.4 7.5 22.7 43.0 8.4 100

出所:帝国データバンク「BCPに対する企業の意識調査(2023年調査)」
単位:%、有効回答企業数11,420社

また策定していない主な理由として、

・策定できる人材がいない

・策定すべき内容が分からない

ということをあげる企業が多くあります。

そういった状況下、2024年元日に発生した能登半島地震とそれ以降多発する地震、南海トラフ地震に対する懸念、昨今の人手不足から働く企業に対する安全配慮義務への機運の高まり等から、BCPの策定が完了していない80%以上の企業において災害対策の見直し、強化を考える企業が急増しています。

そのため、急に上司から災害対策の見直し指示された方、そういった会社から相談をうけたコンサルティングの方も多いと思います。
初めて災害対策、BCP策定を担当される方は、何から検討したら良いかと分からない点が多くあると思いますし、コロナ禍におけるBCPを策定したので、なんとかなると思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、

当テーマ「災害対策マニュアル作成時に最初に踏まえるべきポイント」について、結論を申し上げますと、

地震等の自然災害の対策と、コロナ禍対応等の感染症への対策は、特色が違うため区分して検討、策定する必要があります。

自然災害、感染症等での対策の相違点

相違点 自然災害への留意点 感染症等への留意点
時間軸 〇発生直後から対応が必要・大きな災害の場合、対策本部(経営者が対策を検討する組織)を発生後すぐに設置が必要 〇発生から対策本部設置まで、時間的余裕
〇発生時間に応じた初期対応が必要・勤務時間中、休日夜間の発生で別想定が必要 〇BCP発動期間が長期化する可能性・原因、対策の特定に時間がかかる可能性がある
BCP業務想定 〇発生直後のBCP対応は難しく、徐々に対応業務を増加させる 〇感染状況に応じて、出社できる要員で必要業務(優先順位が高い順位で)を対応する
備蓄の必要物 〇発生直後の帰宅者等への安全配慮が必要〇帰宅困難者等の宿泊対策が必要

〇公共インフラ停止への対応が必要

例)発電

〇感染対策が必要例)防護服

一般的に初めての業務を担当する際、インターネット上でそのポイントを確認して検討に入られる方も多くあると思います。災害対策についてもインターネット上に多くの記事が掲載されていますが、上記相違点を整理しているコメントは少ないため、当レポートを作成しました。

上記以外に2つの対策において共通する対策もあります。そのため、災害対策マニュアルを作成する段階では、

①共通対策
②自然災害への個別対策
③感染症等への個別対策

という3つの切り口で検討するのが良いと思われます。

マニュアル作成時の留意点

最後に、マニュアル作成時の留意点について以下にまとめました。

マニュアル作成時の留意点

①必要に応じてマニュアルを使い分けて作成すること
②マニュアルを細かく設定しすぎないこと
③定期的に懸念事項等について幹部間で確認・議論を行う

①必要に応じてマニュアルを使い分けて作成すること

マニュアル作成時の注意点1つ目としては、「必要に応じてマニュアルを使い分けて作成すること」です。
全てを同じ災害対策マニュアルとして統一するのではなく、例えば、自然災害対策と感染症等の対策は、マニュアルを分けて作成するなど、災害ごとに使い分けて作成するとより効果的です。

②マニュアルを細かく設定しすぎないこと

2つ目に「マニュアルを細かく設定しすぎないこと」です。
災害対策マニュアルはあくまで災害時に備えて必要になるものです。
実際の災害時には臨機応変な対応も必要であり、また緊急時に理解しきれない程の複雑化を防ぐため、マニュアルを細かくまで規定しすぎないことでより効果的な活用が可能となります。

③定期的に懸念事項等について幹部間で確認・議論を行う

また、緊急時に臨機応変な対応ができる様に、マニュアル作成前に災害時に判断、陣頭指揮を取る幹部間で、懸念する事項について議論しておくことも重要です。これに加えて、マニュアル制定後も1回/年など定期的に確認、議論の場を持つことで、災害への意識、災害時の対策に関する意識共有を行うことができ、より効果的となります。

その際は、想定時の条件をマニュアルに記述し、代替案を検討できるようにしておきましょう。(例:想定する避難所が使えない場合の対応など)

以上、簡単ではありましたが、災害対策マニュアル作成時のポイントについて、これまでの私の知識、経験をもとにお話しさせていただきました。ご参考になれば幸いです。

この記事を書いたコンサルタント

中小企業診断士

松井 規雄

1992年大学卒業、某インフラ企業に就職。主にマーケティング、営業分野に従事。2004年、経済学修士取得(マーケティング専攻)。2024年、中小企業診断士取得。現在、関係会社に取締役として出向、管理部門と成長戦略を担当。  中小企業経営者(後継者含む)向け経営塾のマーケティング講師として、約10年約200名のマーケティング戦略作成の指導経験を通じ、中小企業の営業課題解決に向けたノウハウを蓄積させていただいています。

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