経営者必見!企業価値を高める方法や事例について

LeaPath代表の中川です。
今回は「企業価値を高める方法」について説明していきたいと思います。

まず、「企業価値」と聞くと、

「大企業での話なのではないか?」
「うちはオーナー企業だからあまり関係ないです」

と思われるかもしれません。
しかし、企業価値を高めることは、株価を上げるだけでなく、「銀行からの融資」「倒産リスクの低下」など、中小企業にとっても得られるメリットや回避できるリスクが多々あります。
また、今回のテーマに関心がある事業者様にとっては、企業価値を高めることと利益を出すことに違いはあるのか?といった疑問を持たれている方も少なくないと思います。

今回の記事では、その違いについても述べたうえで、企業価値を高める具体的な手法について説明します。

企業価値とは?

そもそも「企業価値」とは何でしょうか。
企業価値算出には様々な方法があります。例えば資産評価基準、収益還元基準、市場価値基準などです。
ただ、本記事ではそれらの専門性の高い話は一旦置いておいて(詳しくは今後「財務会計上級」という動画で説明予定です)、なるべく分かりやすい説明をしたいと思います。

会社は、事業活動を営む上で必要な資産を持っています。例えば、在庫、土地、建物、売掛金、有価証券などですね。
それらの資産をうまく運用して、収益を上げ、また資産を増やしていくというサイクルです。
端的にいうと、

「収益を上げるのに有効な資産をいかに保有し、収益を上げる力が将来にわたって持続しているか」

ということが企業価値を上げるために重要だと言えます。逆に言えば、単年度の利益や借入金の大小など、一部分の改善を行っても、企業価値は上がらないということになります。

企業価値を上げるための観点

では実際ここまでの話から何が言えるかというと、中小企業が企業価値を上げるためには、以下のような金融部分と事業部分の最適化の観点に分けられるということです。

① 無駄な資産をいかに減らし、収益を上げるための資産をいかに増やすか(金融部分の最適化)

② 収益を上げるための資産を増やすために、資金調達は最適化されているか(金融部分の最適化)

③ 将来的に収益を上げるための事業構造になっているか(事業部分の最適化)

上記を意識して経営活動を行っていくことで、結果的に企業価値を高めることが可能になります。

これらをまとめたものが、【図1】の分解図となります。

【図1】企業価値を高めるための分解図

では、実際に企業価値を高めるための、金融部分、事業部分の各最適化について見ていきます。

(1) 不要投融資の処分

まず一つ目が「不要投融資の処分」です。
不要な投資を見直して、収益に寄与する資産に再投資することや、そもそもの有利子負債を削減することは企業価値を上げるために重要な点です。

例えば、企業買収(M&A)においては、よく買収価格の相場目安としては以下の計算式で算出されることは多いです。

企業売却価格=(現預金ー借入)+営業利益×3〜4(※)
※企業の将来性を見て営業利益にかける数値は最大7程度まで見込まれることはあります。

上記の式においても、企業価値を高める上では、不要な借入の削減や収益部分の積み上げというのが大事であることがわかります。

(2)資本構成の最適化

2つ目が「資本構成の最適化」です。

ここではまず、銀行の立場になって考えてみることが大事です。
もし皆さんがお金を貸す立場であるならば、負債も多く純資産も少ないなど返済能力が低い会社なら利率を高くしますよね。反対に返済能力が高いと判断した会社には利率を低くしても貸したいわけです。

では、次に株主の立場になって考えてみましょう。
銀行の利子率よりも株主の要求リターンの方が基本的に高いです。
みなさんが株主になったとして、皆さんが株に投資するのは、株投資で見込めるリターンが、銀行に預ける際の利率(リターン)より高いから投資するわけですよね。つまり、銀行負債(有利子負債)をある程度保有することで、全体の利率は低くなるのです。
ゆえに、この負債と資本のバランス(資本構成)が重要になってきます。

しかしながら、中小企業の場合、オーナー企業が多いと思いますので、上場していない中小企業は、例外はあるものの、基本的には負債を減らして純資産を増やすという方向性で考えても良いかと思います。

(3)事業ポートフォリオの最適化

そして、企業価値を高める3つ目が「事業ポートフォリオの最適化」です。

企業価値を上げるためには、単発ではなく持続的に将来的に収益を上げる仕組み(ビジネスモデル)を作る必要があります。
そのために、適切な事業や市場を見極める必要がでてきますし、投資を最適化していくことが重要です。

(4)事業運営の効率化

最後が「事業運営の効率化」です。

企業価値を高めるためには、コスト削減はもちろんのこと、持続的に収益をあげるためにモニタリング指標などをしっかりと整備し、改善していく仕組みがあることも重要です。
将来的に収益を生み出す人材力があるかどうかといった、人的資本の強化なども含まれてきます。

企業価値を高める目的

具体的な施策について説明する前に、まずは中小企業が企業価値を高める目的について、よくある7つについて列挙しておきます。
当てはまるものがあれば、後述する施策についてご検討ください。

中小企業が企業価値を高める目的7つ

①株価を上げ純資産額を増やす
②融資をしやすくする
③取引先など、ステークホルダーの評判などを上げ、新たな事業機会を創出する
④従業員のモチベーションアップと向かうべきベクトルの統一
⑤倒産リスクの低下
⑥承継準備
⑦買収リスク低下

企業価値を高めるのは、直接的に金額で表されるものだけではありません。③や④のように将来的な会社の成長を手助けすることになることもありますし、もちろん倒産リスクを低下させることもできます。
また、将来事業承継を考えられている場合、特にご子息の場合などは、会社基盤を適切に整備しておくことで事業承継しやすくなるメリットもあります。

企業価値を高める手法

具体的な内容は「財務会計上級」(今後提供予定)の動画にて説明するとして、本記事では具体的な施策や考え方、手法を列挙いたします。

(1)不要投融資の処分

・有価証券

平均的にはリスクに見合ったリターンが得られるのみであり、是非を判断すべきだと考えます。
特に借入金で資金調達した資金を原資とした運用については価格変動をはじめとしたリスクも高く、避けた方が良いです。

・関係会社・取引先への投融資

当該投融資が、将来的な営業資産に値すべきものであり、事業を行う上で必要とされる性格のものかどうかを検討し、是非を判断すべきだと考えます。

・持合株式

持合株式については、経営の安定化や企業間の関係強化による取引高の向上(売上高への貢献)等メリットがある場合がある一方で、自社事業に必要のない単なるお付き合いの場合の持合株式については、本来さらに将来的に自社への利益につながる分野に投資できる資金をあえてそちらに回していることで資金効率の低下につながるため、是非を検討すべきであると考えます。

・不動産

収益性の低下した土地等は、減損会計の適用により帳簿価額を減損する必要があります。よって事業に使用する目的以外の不動産の保有は、是非を判断すべきだと考えます。

(2)資本構成の最適化

資本構成の最適化を図るにあたり、資金調達において注意したい重要な視点は3つあるかと思います。

①短期の資金需要に対して、長期の資金調達を行わないこと

②長期の資金需要に対して、短期の資金調達を行わないこと

③ 投資の回収期間よりも短い期間の資金調達を行わないこと

①短期の資金需要に対して、長期の資金調達を行わないこと

短期の資金需要に対して長期の資金調達を行うことは望ましくありません。通常長期金利の方が高い為、長期の資金調達を行うと必要以上に高い金利を払うことになります。

②長期の資金需要に対して、短期の資金調達を行わないこと

反対に、長期の資金需要に対して、短期の資金調達を行うことも望ましくありません。
なぜなら、生み出すキャッシュフロー(お金)が返済に追いつかないためです。(長期にしか効果【利益】を出せないにもかかわらず、返済はすぐだと困りますね)
最悪の場合、借り換えができない場合や当初の借入金よりも高い金利になることもあります。

③ 投資の回収期間よりも短い期間の資金調達を行わないこと

3つ目が、「投資の回収期間よりも短い期間の資金調達を行わないこと」になります。
そのような事態が生じた場合は、返済期限がない株式や返済期間が長い社債を発行するなどして、資産と負債・株主資本の期間構成を対応させるなどの手段があります。

(3)事業ポートフォリオの最適化

次に事業最適化領域における、「事業ポートフォリオの最適化」の部分についてです。
事業ポートフォリオの最適化を行う上ではいくつかの手法・フレームワークがあります。

1:プロダクトポートフォリオマネジメント

多くの企業は複数の事業を行っていますが、経営資源は有限です。
その中で企業は高い収益性を維持し成長を実現するために、どの事業に重点的に資源を投下するかを決めなければなりません。
そういった際に使う比較的古典的な手法としてプロダクトポートフォリオマネジメントがあります。

以下の【図2】のように縦軸に市場成長性、横軸に相対的マーケットシェアをとり、4象限に分類します。
「金のなる木」が生み出した現金を「問題児」のうち見込みのある事業に投入して、マーケットシェアを高めて「花形」に育てるか、研究開発などに投資して「花形」を作り出すか、という点が論点になります。また、「負け犬」のうち、収益の改善が見込めない事業については、撤退の検討対象となります。

【図2】プロダクトポートフォリオマネジメント

しかしながら、このフレームワークは欠点も多く、経験上そのまま活用できたことはありません。
軸が単純すぎることと、シェアが高いからと言って資金流入が高くならない市場や業界も多数あるため等が理由です。
では、なぜプロダクトポートフォリオマネジメントを紹介したかというと、事業の優先順位を付けるためには、自社が属する業界や自社の状況など複数の視点から考えて資源配分する必要があるという基本を押さえていただくためです。

2:ビジネススクリーン

ビジネススクリーンは、1で述べた「プロダクトポートフォリオマネジメント」の欠点を補うフレームワークで、業界の魅力度と事業の強さの2軸で分類したマトリクスです。

業界の魅力は、プロダクトポートフォリオマネジメントのように市場の成長性だけでなく、市場規模、産業の収益性、循環性、インフレへの対応などを加味します。同時に事業の強さは相対的マーケットシェアだけでなく、業界内での競争上のポジションや他企業と比べての相対的収益性という要因によって決められます。
2つの軸をもとに、3×3の9つに分け、各事業を増強、現状維持、利益回収(撤退)の3種類に分けます。
欠点として、2つの軸の判断基準に恣意性が入り込む余地があるため、全社的に協議し客観的なデータをもって評価することがキーポイントです。
ビジネススクリーンも軸の内容は業界や会社によって変えますが、ビジネススクリーンのベースを活用した経験が2社であります。

【図3】ビジネススクリーン

このように、プロダクトポートフォリオマネジメント、ビジネススクリーンを問わず、事業ポートフォリオで重要な点は、どの事業にも一律に投資するのではなく、様々な基準に基づいて企業の強みやコアコンピタンス(他社に真似できない核となる能力)を発揮できる事業に重点的に投資し、そうでない事業は撤退または縮小していくという戦略的な意思決定が経営者に求められるということです。それにより投下資産を最適化しつつも、利益率やキャッシュフローが増し、結果的に企業価値を高めることができるのです。

3:バリューマップ

バリューマップは、横軸に各事業の投下資本額、縦軸に各事業の付加価値額を示します。付加価値は、各事業が将来生み出すであろうフリーキャッシュフローの現在価値(フリーキャッシュフローも現在価値も聞きなれない方は、ここでは簡便的にキャッシュフローと理解してください)から投下資本を引いたものです。
【図3】では、事業A~Cまでは、将来のキャッシュフローが投下資本より大きくなり、付加価値はプラスになるため、事業A~Cは価値を生み出しているということになります。一方、事業部D・Eは将来のキャッシュフローが投下資本を下回っているため、付加価値はマイナスになります。
このようなバリューマップを用いれば、事業間の相対的な価値が分かり、資源配分が容易になります。
ただし、キャッシュフローの算出は、中小企業にとっては極めて予測が難しい側面もあるため、簡便的に税引後営業利益で行うことも場合によってはアリかと思います。

【図4】バリューマップ

専門的な内容となる部分もありましたが、本記事では概要についてお話しさせていただきました。
「決定版!中小企業のための経営戦略の作り方」の動画ではさらにこの内容についてわかりやすく、より詳しく説明していますのでぜひご覧ください。

(4)事業運営の効率化

そして最後に事業領域における最適化の方法として、「事業運営の効率化」があります。

BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)

コスト、生産性、品質、サービス、スピードなどを改善するために、既存の組織や業務プロセスを抜本的に見直して、業務の内容や流れ、組織構造を分析し、再設計する手法です。こちらについては「中小企業のための基幹システム導入方法」の動画をご参考にいただくのが最もわかりやすくオススメです。

セール・アンド・リースバック

企業が保有する本社建物や店舗などを一旦売却した後、それらの建物を売却先からリースして使用し続けること。資金調達のために保有資産を売却したいが、売却後もその資産を事業に利用し続けたい場合に活用できます。

アウトソーシング

アウトソーシングは、自社の業務の一部を外部に委託することを指し、外部経営資源の有効活用によって、自社は中核的な事業プロセスに集中していきます。本当に自社にとって大切な部分の知的資産の蓄積に努めることで、企業価値を上げていきます。

効果的な指標(営業ROICツリー)

中小企業でも簡単にモニタリング・分析できる指標に、営業ROICツリーというものがあります。

算出式は①で、②と③に分解できます。

こちらの算出式において、

① 純営業資産というのがポイントです。(売掛金・在庫・土地などの営業資産から買掛金などの営業負債を引きます)
本業での資産(事業価値)に対してどの程度収益を得られているかをモニタリングします。
② 売上に対してどの程度の利益を得られているのかをモニタリングします。
③ 本業への投資に対してどの程度売上を得られているかをモニタリングします。

いかがでしたでしょうか。
本記事の内容はあくまで一例ですが、中小企業から中堅企業に飛躍したい企業や、事業承継の基盤を整備されようとしている企業、銀行との交渉材料を増やしたい企業の皆さまに、ご参考にしていただければ幸いです。

本件で話した内容については、私が今まで企業価値向上系のプロジェクトの実例に基づいている部分もありますので、実際に検討・実施される際は、マッチングリーパス(リーパスのコンサルティングサービス)にお問い合わせください。

当サイトを展開するリーパスでは企業価値向上の経験豊富なコンサルタントが多数所属しておりますので、是非お気軽にご相談ください。

この記事を書いたコンサルタント

中小企業診断士

中川 逸斗

同志社大学商学部商学科卒業後、IBMに入社し、広告、製造業、ゲーム会社などの大手企業の新事業構築、海外展開、IT戦略構築などのコンサルティング業務に従事。その後、デロイトトーマツコンサルティング合同会社入社し、鉄道、ガス、小売、製薬などの大手企業の経営戦略構築、調達改革、経営再編、M&Aなどのコンサルティング業務に従事。 その後、Tech系スタートアップの取締役を経て、現在は日本自動調節器製作所の経営企画室の室長、戦略系コンサルティングファームのマネージャー、HAL経営コンサルティング合同会社の代表、LeaPath代表の4足の草鞋(兼業)で活動中。現在まで、大手企業から中小企業まで、計30社50プロジェクト以上のコンサル経験を持つ。また、中小メーカーの管理統括も同時に行っているため中小企業目線でのコンサルを得意とする。専門領域は経営戦略・DX・人事。

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