こんにちは、中小企業診断士の小山と申します。
私はこれまで補助金申請に関わる仕事を長くやってきましたが、今回そんな私が、ものづくり補助金をテーマに「ものづくり補助金とって何?」といった概要から、実際に補助金が採択されるためにはどうすれば良いか、といったポイント等についてもお話ししていきます。
ものづくり補助金とは?
ものづくり補助金の正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」と言い、中小企業・小規模事業者等の成長を支援するための補助金です。
本補助金の目的は、中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的な製品・サービスの開発、生産プロセス等の省力化を行い、生産性を向上させるための設備投資等を支援します。
そのため、単なる機械設備の取替投資では補助対象になりません。
申請に際し、事業者自身がものづくり補助金の要件を満たした事業計画書を作成し、審査項目から妥当性を認められる必要があります。
注目される背景
本補助金が実施されることとなった背景として、現在、我が国では、国際競争力の強化を行い、経済成長を進めていくために労働生産性をより一層高めていくことを目指しています。
しかし、それでも日本生産本部「労働生産性の国際比較2023」によれば、OECD加盟国平均よりも労働生産性が低い状況です。
特に日本の中小企業においては、全企業のうち中小企業の割合は、99.7%と非常に高く、また、中小企業では日本全体の雇用の約7割を抱えています。
そのため、改めて中小企業の生産性向上というものが求められてきており、生産性向上に寄与する本補助金が注目される背景となっています。
制度の概要(基本要件)
ものづくり補助金の要件等は、公募回ごとに変更されることがありますので、必ず、最新の公募要領を確認することをお勧めします。
第18回公募時点では、以下の基本要件を満たす「事業計画(3年〜5年)」を策定する必要があります。
①「付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)」を年平均成長率3%以上増加させること
②「給与支給総額」を年平均成長率1.5%以上増加させること
③「事業場内最低賃金」を毎年、地域別最低賃金+30円以上の水準にすること
基本要件以外にも、申請枠や類型に応じて追加要件が設定されています。
①「付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)」を年平均成長率3%以上増加させること
①の付加価値については、事業者が事業活動により生み出した価値そのものであり、設備投資をした結果、どれだけの投資対効果があるかを根拠立てて事業計画に落とし込まないといけません。
②「給与支給総額」を年平均成長率1.5%以上増加させること
②の「給与支給総額」は従業員へのベースアップはもちろん、新たな従業員の雇用を行うことでも増加が見込めます。
③「事業場内最低賃金」を毎年、地域別最低賃金+30円以上の水準にすること
③の「事業場内最低賃金」については、政府による物価上昇を上回る持続的な賃上げを実現するための同一の施策となっています。
過去を遡ると毎年、最低賃金額が増加しているため、今後も同様に続く見通しです。そのため、パート・アルバイト雇用の多い事業者は、今後の人件費についてシミュレーションを行うことが必要であると考えます。
また、基本要件の②と③が未達であった場合は、補助金の返還義務が発生しますので注意が必要です。
制度の概要(3つの枠と2つの類型)
ものづくり補助金には以下の通り、3つの枠と2つの類型があります。
(1)省力化(オーダーメイド)枠
(2)製品・サービス高付加価値化枠(通常類型)
(3)製品・サービス高付加価値化枠(成長分野進出類型)
(4)グローバル枠
(1)省力化(オーダーメイド)枠
人手不足の解消に向けて、デジタル技術等を活用した専用設備(オーダーメイド設備)の導入等により、革新的な生産プロセス・サービス提供方法の効率化・高度化を図る取り組みに必要な設備・システム投資等を支援します。
なお、システム開発については汎用的に利用できるパッケージシステムを元に、顧客の希望に合わせて機能を追加するなどのカスタマイズを行う開発方式や、システムやソフトウェアをゼロからオーダーメイドで開発する開発方式となっているなど、オーダーメイドである取組が審査されます。
(2)製品・サービス高付加価値化枠(通常類型)
製品・サービスの高付加価値化を実現するために、革新的な製品・サービス開発の取組みに必要な設備・システム投資等を支援します。
(3)製品・サービス高付加価値化枠(成長分野進出類型)
将来成長が見込まれる、DXやGXに資する分野に該当し、革新的な製品・サービス開発の取組みに必要な設備・システム投資等を支援します。
(4)グローバル枠
海外事業の拡大・強化に資する分野に該当し、国内の生産性を高める取組みに必要な設備・システム投資等を支援します。
こちらで言う、「海外事業」とは、以下の4つを指します。
②海外市場開拓(輸出)に関する事業
③インバウンド対応に関する事業
④海外企業との共同で行う事業
加えて、新商品・サービスの開発改良、ブランディングや、新規販路開拓等の取組みを目的とする事業であり、事前にマーケティング調査(実現可能性調査)を実施し、その結果に基づく開発改良、ブランディング等を行うことが基本要件となります。
補助上限額・補助率
各申請枠について、補助上限金額・補助率といった全体像は以下のとおりです。
従業員数や申請類型にもよりますが、750万円〜1億円までの補助上限額となっています。
申請準備(準備するもの)
GビズIDプライムのアカウント
申請は電子申請システムのみで受け付けています。申請には、「GビズIDプライムアカウント」が必要です。
ID取得には一定の期間を要しますので、まだ取得していない方は、早めにGビズIDプライムアカウントの取得手続きを行いましょう。
<GビズID>
https://gbiz-id.go.jp/top/
提出書類
提出必須書類としては以下が必要となります。
・事業計画書算出根拠
・補助経費に関する誓約書
・決算書等
・従業員数の確認資料
・労働者名簿
・「再生事業者」に係る確認書(再生事業者のみ)
・大幅な賃上げ計画書(大幅賃上げ特例申請事 業者のみ)
・金融機関による確認書 (金融機関から借り入れ を行う事業者のみ)
・その他加点にかかるエビデンス(加点申請事業者のみ)
スケジュール
第17次締切分 公募スケジュール
公募開始 :2023年12月27日(水)17:00~
電子申請受付:2024年 2月13日(火)17:00~
申請締切 :2024年 3月 1日(金)17:00まで【厳守】
※ 17次締切分補助金交付候補者の採択発表は、2024年5月中旬頃を予定しています。
第18次締切分 公募スケジュール
公募開始 :2024年 1月 31日(水)17:00~
電子申請受付:2024年 3月 11日(月)17:00~
申請締切 :2024年 3月 27日(水)17:00まで【厳守】
※ 18次締切分補助金交付候補者の採択発表は、2024年6月下旬頃を予定しています。
※ 令和5年度補正予算に基づく公募については、本公募で終了となります。
全体の流れ
①必要書類を期日までに提出
②採択決定通知
③交付申請
④補助事業開始
⑤実績報告
⑥補助金の請求と受領
⑦事業化状況報告
①必要書類を期日までに提出
上記記載の書類を申請締切日までに提出することが必要です。申請最終日は混み合うことが予想されるため、適切なスケジューリングを行うよう段取りが必要です。
②採択決定通知
ものづくり補助金が採択されたら、公式ホームページ上に採択者一覧が公表されます。また、各申請者は個別通知を受取り、採択結果に関する通知が登録したメールアドレスに送付されます。
③交付申請
事業計画書の内容が、①の書類で審査されるのに対し、交付申請は、事業計画書の中に記載した補助対象経費の確認と承認を目的としています。見積書を用意し価格の妥当性をエビデンスとともに提出します。
④補助事業開始
交付決定が下されると、補助事業が開始できます。そのため、交付決定が下りる前に、対象経費の発注をすると補助対象外とみなされますので注意が必要です。補助事業開始後に、事業計画に基づいた経費が対象となるので、これから行う補助対象設備への発注や支払いが可能となります。
⑤実績報告
補助事業が終了し、実施した計画の成果と経費の使用状況を取りまとめ、実績報告を行います。ここで、支払証明となる、納品書や、請求書など多くの資料が必要となります。
⑥補助金の請求と受領
実績報告が承認された後、補助金の支給を事務局側へ申請し、その後補助金が振り込まれます。
⑦事業化状況報告
補助金を活用した事業がどのように遂行しているか、事業実施後どのような効果が現れたかをまとめて提出する手続きです。
補助金の受領後を初回として、5年間に渡り毎年報告が必要で、合計6回の報告が必要です。
採択されるためのポイント
作成した事業計画書を審査する上で、書面審査と口頭審査が行われます。
書面審査
書面審査は、以下の6種類があります。
1)補助対象事業として適格性
2)技術面
3)事業化面
4)政策面
5)大幅な賃上げに取り組むための事業計画の妥当性
6)加点項目
の6種類あります。
公募回によって多少審査項目が異なりますが、大筋は変わりませんので、上記6項目を中心に記載するようにしてください。
1)補助対象事業として適格性
まず1つ目の適格性について、
そもそもとなる公募要領記載の対象事業、対象者などを満たすか確認してください。
事業計画書を3〜5年計画で「付加価値額」年平均成長率3%以上の増加等を満たす取り組みかが審査されます。
2)技術面
・製品やサービスの開発が革新的であるか
・課題に対する解決の方法が明確で具体的か
が評価されます。
既に世の中に普及している技術の導入や設備導入のみによって容易に達成でき、技術革新性が低い事業は、低い評価を受ける
傾向があります。
3)事業化面
・事業化の方法スケジュール等が具体的か
・製品サービスの市場性があるか
・企業の収益性・生産性は向上するか
が評価されます。
4)政策面
・地域経済への貢献や我が国の経済発展のために国の経済政策として支援すべき取り組みか
が評価されます。
5)大幅な賃上げに取り組むための事業計画の妥当性
本項目は任意であり、補助率引き上げを行う場合のみ、記載が必要です。
6)加点項目
将来起こる中長期的な経済・社会構造の変化に対応していくためには、環境に柔軟に適応し、自己変革を続けて
いく必要があります。以下の取り組みを行う事業者に対しては加点を行います。
加点項目について
将来起こる中長期的な経済・社会構造の変化に対応していくためには、環境に柔軟に適応し、自己変革を続けていく必要があります。この加点項目というのは、書面審査において、加点項目に挙げられる以下の取り組みを行う事業者に対して審査時に加点してもらうことのできる制度です。
加点項目は大きく分けると、
「成長加点」
「政策加点」
「賃上げ加点等」
「女性活躍等の推進の取り組み加点」
の4種類があります。
加点項目がどの程度採択に影響されるかは公表されていません。
そのため、実際にどの程度のポイントが加算されるか、全体評価からどの程度のウエイトを占めるかは分かりません。
しかし、加点項目を取得することが採択に影響することは間違いなく、下記のグラフは、ものづくり補助金総合サイトに掲載されている、加点項目に関するデータです。
加点項目が0個の場合の採択率は33.4%であるのに対し、2個の場合は53.0%に上昇します。
これは、16次公募時の採択率48.8%に対し高いポイントを示しており、審査における加点項目の影響力の大きさというものを表しています。
以上のように、採択されるためには加点項目を可能な限り取ることが重要です。
中には、取得難易度もそれほど高くないものもあります。実際に、加点項目のうち特にどの項目を取得することが良いか、比較的取得しやすいかについて自身の知識、経験も踏まえて解説します。
①政策加点 【創業・第二創業後間もない事業者(5年以内)】
まず、対象事業者であれば必ず取りに行きたい政策加点が、「創業・第二創業後間もない事業者(5年以内)」加点となります。
こちらは、会社成立の年月日(個人事業主の場合は開業日)又は代表取締役の就任日が、公募開始日より5年前の日から応募締切日までの場合に対象となります。
こちらについては、対象者は限られますが、エビデンスとなる履歴事項全部証明書(法人)や開業届(個人事業主)を提出すれば加点されますので、対象事業者であれば必ず取りに行きたい加点項目となります。
②政策加点 【パートナーシップ構築宣言】
次に、政策加点である「パートナーシップ構築宣言」です。
パートナーシップ構築宣言とは、事業者が、サプライチェーン全体の付加価値向上、大企業と中小企業の共存共栄を目指し、「発注者」側の立場から、「代表権のある者の名前」で宣言するものです。
宣言内容は事業者により任意で決定ができますが、パートナーシップ構築宣言ポータルサイト内にて、ひな形や参考様式がありますので、そちらを参考にしながら作成します。
ポータルサイト内で宣言を登録すると、約1週間程度でポータルサイト上に宣言内容と代表者の氏名が公表されます。
宣言を公表すると指定のロゴマークを使用することが可能となり、広報等で活用できます。
③賃上げ加点
そして、狙っていきたい加点項目の3つ目が「賃上げ加点」です。
基本要件となる「給与支給総額」を年平均成長率1.5%以上増加させること、
及び「事業場内最低賃金」を毎年、地域別最低賃金+30円以上の水準にすることに付け加え、
事業計画期間(補助事業完了年度の翌年度以降)における給与支給総額と事業場内最低賃金を、それぞれ以下(ア)もしくは(イ)の通りとする計画を有し、事務局に誓約書を提出している事業者が対象となります。
(ア)
給与支給総額 | 年平均成長率平均3%以上増加 |
事業場内最低賃金 | 毎年3月、地域別最低賃金より+50円以上の水準を満たしたうえで、毎年+50円以上ずつ増加(初回は応募時を起点とする) |
(イ)
給与支給総額 | 年平均成長率平均6%以上増加 |
事業場内最低賃金 | 毎年3月、地域別最低賃金より+50円以上の水準を満たしたうえで、毎年+50円以上ずつ増加(初回は応募時を起点とする) |
こちら(ア)と(イ)どちらを達成するかについては、明確には言及されてはおりませんが、おそらく(イ)を達成する旨を事業計画へ落とし込み、申請した場合の方が採択される確率は上がると考えられます。
理由としては、本補助金の目的に沿うためです。(労働生産性を上げ、余剰利益を生み出し従業員、あるいは法人税へ還元すること)
給与支給総額には、従業員や役員に支払う給料、賃金、賞与、各種手当(残業手当、職務手当、住宅手当等、給与支給所得とされるもの)が含まれ、退職手当等の給与所得とされないものや福利厚生費は含まれませんので注意が必要です。
口頭審査
今回の申請では初めて、「口頭審査」が実施されます。
口頭審査は、補助申請額が一定規模以上の申請を行う事業者を対象にオンライン(Zoom等)にて、1事業者につき15分程度実施されます。一定規模以上という部分を開示してないため、現段階では不明です。
口頭審査期間は以下の通りです。下記日程のうち、事務局が指定のうえ、申請者に連絡があります。日時の変更や希望はできません。また事前に顔写真付きの身分証明書、安定したインターネットに接続されたPC等の準備が必要です。
【口頭審査期間】
・2024年4月1日(月)~2024年4月12日(金)
口頭審査では、主に以下の内容について審査されます。
・申請された事業計画の適格性
・革新性
・競合他社と比べた際の優位性
・実現可能性
また、これらに加え、事業の申請に係る意思決定の背景や事業実施に際しての事前のマーケティング調査等、計画書に記載のない内容についても問われる場合があります。
また審査は申請事業者自身(法人代表者等)が対応しなければなりません。事業計画書作成支援者、経営コンサルタント、社外顧問等の申請事業者以外の者の対応や同席は一切認められないため、注意が必要です。
最後に
ものづくり補助金は、採択率が約50%と比較的難易度が高い補助金です。
採択を勝ち取るためには、事業計画書よりも、経営者が考える事業の企画立案の品質を上げていきましょう。
事業内容が、デジタル技術を活用し労働生産性が向上することや、ビジネスモデルを変革し、より地域経済を発展させる取り組みであることなど、高いクオリティの企画であれば、採択の可能性が上がります。
終わりに
以上、ものづくり補助金についてのお話でした・
当サイトを展開する「リーパス」では、ものづくり補助金の申請についても、中小企業診断士を始めとしたプロフェッショナルが全力でサポートしますので、現在、ものづくり補助金(他補助金を含む)を検討されている企業、事業者の方は、ぜひお気軽にご相談ください!