【徹底解説】社労士と中小企業診断士のダブルライセンスについて

社会保険労務士(以下、社労士)&中小企業診断士&経営者の床田(とこだ)です。
今回は「社労士と中小企業診断士のダブルライセンスって実際のところどうなん?」という疑問について実体験を交えてお答えします。

1.社労士の私が中小企業診断士を取得した理由

私が社労士の資格を取得したのは、新卒で入社したNTT西日本の2年目(24歳)の時です。その後、29歳で社労士法人に転職、34歳で代表社員になりました。

これまで経営的な業務をしたことが無かった私ですが、NTT西日本での経験に加え、大学時代に学んだ組織論や経営戦略論を実践に落とし込み、入社時から従業員規模4倍以上、売上8倍以上を実現することができました。未曽有の事態であるコロナ禍を乗り切れたことも少し自信になりました。

数字を見ればまずまずといった感じですが、心のどこかで「感覚的な経営になっていないか」「このままのやり方で良いのか」という気持ちがありました。

そこで、今一度、経営を体系的に学ぶために中小企業診断士の資格取得を目指すことになります。以下、主な取得理由です。

中小企業診断士の資格取得を目指した理由

①社労士としてのもどかしさ解消
②経営者としてのレベルアップ
③社労士との差別化

①社労士としてのもどかしさ解消

社労士は人事労務のプロであり、人事労務に関する経営者の課題を解決しますが、経営者の目線に立って、経営的な観点からアドバイスができる社労士は稀有です。また、経営者もそのことを分かっていますので、社労士に経営的な相談はしません。

社労士の実務をおこなう中で、人事労務のアドバイスに加えて、経営の観点からアドバイスができれば、よりクライアントに喜んでもらえるのではないか。そう思い、中小企業診断士の資格取得に至りました。

実際、中小企業診断士の資格を取得してからは、意識的に経営者目線で相談に応じることにより、人事労務の領域に留まらず、経営全般の相談をいただくことが増えました。実例として、都内IT企業から社外監査役の就任依頼もいただきました。

実例も含めて、経営・人事の両面からアドバイスができれば、これまで以上にクライアントの満足度を高めることができ、壁を取っ払うことができると確信しました。

②経営者としてのレベルアップ

これまで感覚で経営をおこなってきた部分は否めず、どこかもどかしさを感じていたこともあり、当初から一次試験合格後は養成課程で実践力を磨くことを目的としていました。

養成課程のカリキュラムが進むにつれて、自社の経営戦略立案時の思考の深さ、社内向けに経営計画等を説明するときのプレゼンスキル、資料作成スキルがアップし、周囲の人から賞賛されたり、意識していることを聞かれたりすることが圧倒的に増えました。これは養成課程での実践型カリキュラムと優秀な同期の存在がとても大きいです。

③社労士との差別化

社会保険労務士には1号業務~3号業務というものがあり、1号業務及び2号業務は定型的な社労士業務(書類作成等)をさし、3号業務はいわゆる人事労務コンサルをさします。大半の社労士は1・2号業務を中心に行い、3号業務を苦手とする人が多いのが実態です。

私は前職の経験(人事制度設計)もあり、3号業務を強みとしていましたが、実務を行う中で、人事労務コンサルのスキルに経営コンサルのスキルが付加されれば、もっと面白い仕事ができるのではないかと考えました。

中小企業診断士になってからは、経営戦略の立案などをフックに得意領域である人事労務分野の受注につなげることが出来ています。受注額もこれまでとは比べ物にならないくらい大きくなりました。これが中小企業診断士の価値なんだなと改めて感じています。

2.ダブルライセンスを生かすためには

ここからは、社労士と中小企業診断士のダブルライセンスがどのようなジナジー、価値を生むのかについて見ていきます。

ダブルライセンスの強みは何といっても戦える領域の「広さ」と「深さ」を兼ね備えていることです。
私個人のことで言いますと、社労士としての業務の「深さ」中小企業診断士としての見識の「広さ」です。勿論、どちらかの資格だけでも仕事になりますが、「深さ」と「広さ」を兼ね備えることで提案の中身の価値が大幅に増します。

例えば、社労士的な観点から「評価制度を作りましょう」と提案したとします。
中小企業診断士の資格を持ち合わせていると、人事評価の上段にある経営理念の理解、競合他社分析、自社の経営戦略等の観点から、当該会社の強みと機会を掛け合わせ、他社と差別化できるキラーコンテンツの本質を客観的に把握したうえで、今後の企業経営に必要な要素を見つけ出し、それを人事評価の項目にするでしょう。これがまさに「深さ」と「広さ」が生み出す付加価値だと考えます。

ダブルライセンスの強みを知った上で大事なのは次の「実務」の話になります。

実務を浴びるほどやること

社労士も中小企業診断士もどうすれば食えますか?と聞かれることがあります。

そもそも「食える」の定義は人それぞれか異なると思いますが、ここでは一般的なサラリーマンよりも少し高い水準、具体的には年収700万円以上を想定してお話します。

そのような質問に対して、私は「実務を浴びるほどやる」ことだと答えます。

実務といっても闇雲に手を出すのではなく、

①業界の人とネットワークを作りそこから情報を仕入れ、
②高付加価値なマネタイズができ、且つ、中長期的に成長性のある業務をこれでもかというくらいやる

のです。

特定の分野で自らをブランディングし、そのバリューを知人等にアピールすることで、紹介から仕事を受けることができるようになります。一足飛びに大量受注ができるようにはなりませんが、戦略をもって計画的に確実に進めることで確実に食えるようになります。

もし、浴びるほど実務をやっているのに思ったように収入が上がらないという人は、上記①、②が不足していることが想定されますので、戦略の見直しが必要です。

3.実際に社労士・中小企業診断士のダブルライセンス取得で変わったこと

ダブルライセンスを取得するメリットについて、シングルライセンスの場合と比較しながら説明します。

社労士・中小企業診断士のダブルライセンス取得で変わったこと

①一歩先の経営者の思考
②付き合う相手が変わる
③「ただの社労士」じゃなくなった

①一歩先の経営者の思考

これまで5年間経営者としての実務をおこなう中で、「ヒト」のことについて自信がありましたが、経営に関しては「現状に満足したくない」とがむしゃらに動いていたように思います。

中小企業診断士になってからは自社を客観的、俯瞰的に見ることができるようになり、短期的な勝負所、中長期的な勝負所がそれぞれ見えてくるようになりました。

また、従業員からの相談等に対して、人事労務の観点からだけではなく、経営的な視点からロジカルに意思を表明することができるようになり、これまで以上に従業員からの信頼を得られていることを実感します。

②付き合う相手が変わる

これまで小さな規模の企業(零細規模)であれば、経営者とやりとりをしていましたが、中小、中堅のクライアントにおいては人事労務担当責任者とやりとりしていたものが、経営層とやりとりする機会が増えました。

また、中小企業診断士は「士業のハブ役」ということもあり、多くの専門家を紹介いただき、そこから派生して一気にビジネスが生まれました。社労士の資格しか持っていなかった時の人的ネットワークが一気に広がったのは今後のビジネスにおいても非常に価値あることであると感じます。

③「ただの社労士」じゃなくなった

「ただの社労士」というと語弊がありますが、厳密に言うと社労士が気づけない又は気づいても着手できない領域でクライアントにお役立てできるようになりました。

経営課題の解決をフックに人事労務の課題解決につなげることができ、1つの案件に対して2段階でクライアントの役に立つことができるため、これまで以上にクライアントの懐に入りやすくなります。

具体的には、人事制度の設計を行うにあたり、人件費だけにフォーカスするのではなく、決算書から過去の流れを読み解き、今後の人事戦略を踏まえ、いくらを昇給原資に充てることができるか、賃金カーブの設計にどう反映するかを検討し、提案できるようになりました。
クライアントからも「お金のところも見たうえで設計してもらえるのはありがたい」と感謝のお言葉をいただきました。

これはまさにダブルライセンスの強みと言えます。

4.社労士・中小企業診断士のダブルライセンスを生かした事業領域の例

社労士・中小企業診断士のダブルライセンスを生かした事業領域の例として2つ挙げさせていただきます。

1.経営とヒトを繋ぐ「人的資本経営」

今後の人事戦略を策定するにあたり、「人的資本経営」の考え方は非常に重要です。

経済産業省は「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営」と定義しています。
まさに社労士×中小企業診断士の領域であり、今後、多くのニーズが見込まれます。

2.他士業、コンサルとの差別化領域

「働き方改革」以降、特に中小企業にとって「ヒト」の問題は企業経営を左右するといっても過言ではありません。

税理士や弁護士と中小企業診断士のダブルライセンスも素晴らしいですが、直接的に現場レベルで感謝されやすいのは社労士×中小企業診断士だと思います。

また、いわゆる「コンサル」との違いとして、国家資格である社労士と中小企業診断士を保持していることは、国からお墨付きをもらっていることを客観的に証明でき、経営者に安心感を与え、入り口のところでかなりのアドバンテージがあると感じます。
勿論、生かすも殺すも自分次第ではありますが、中小企業の課題に最短距離で攻め込んでいけるのは国家資格ホルダーの強みであると言えます。

5.ダブルライセンス取得して良かったか

先にも記載のとおり、攻められる領域が広くなること、「広さ」と「深さ」が強みになることから、ダブルライセンスはお勧めです。

ただ、どちらも実務未経験だとダブルライセンスの良さは発揮されません。どちらかに軸を置きながらもう一方の領域をフックにすることで初めてダブルライセンスの強みが発揮されます。

闇雲にダブルライセンスを目指すのではなく、計画的、戦略的にダブルライセンスを取得することをお勧めします。

6.社労士・中小企業診断士のダブルライセンス取得がおすすめの人

私の経験上、社労士を先に取得して実務経験を積んでから中小企業診断士を取得することをお勧めします。

社労士の実務も3号業務に強みを見出しつつ、中小企業診断士の領域を自分のテリトリーにできる、そんな人には是非、社労士×中小企業診断士を目指して欲しいと思います。
中小企業診断士を先に取得して経営アドバイザーとしての経験を積んでから社労士の資格を取得しても人事労務を軸にして活躍することは難しいように思います。

如何でしたでしょうか。個人的な経験を踏まえてのお話になっているので少し偏った内容になっているかもしれませんが、10年以上社労士の実務を積んだうえでのお話ですので、現場のニーズからはそう遠くはない話だと思います。是非、みなさんの「軸」を決めたうえでダブルライセンスを取得していただければと思います。

この記事を書いたコンサルタント

中小企業診断士社会保険労務士

床田知志

大学卒業後、NTT西日本に入社。入社2年目に社会保険労務士試験に合格し、翌年から5年間、本社人事部にて人事制度の設計、運用に携わる。 2014年に社会保険労務士法人和へ転職。大企業の人事制度設計経験者であることを強みに多岐に亘る業種において人事制度の設計を中心に展開。 組織規模、売上規模の拡大を実現し、2017年に同社パートナー、2019年に同社代表社員に就任。 入社当時から約10年間で従業員数を約4倍、売上を8倍以上に拡大した実績をもつ。 各種セミナー、研修講師、メディアへの出演等、幅広く活動している。

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