現役診断士が解説!中小企業診断士の独立は失敗しやすいのか?

中小企業診断士でLeaPath初期メンバーの山田です。
今回は、「現役診断士が解説!中小企業診断士の独立は失敗しやすいのか?」と題してお送りします。
私は中小企業診断士に登録したその年に独立をしました。それまでは中堅企業でのサラリーマンとして20年以上生活してきましたが、違う世界に足を踏み入れたことになります。

今回は自らの経験に加え、周りの現役診断士数名のお話を総合しながら、はたして独立すると失敗してしまうものなのかを検証してみたいと思います。

結論:中小企業診断士の独立は決して失敗しやすくない

結論から申しますと、「中小企業診断士の独立は失敗しやすいのか?」という問いに対しては「NO」と回答します。
私もここまで順調に進めてきていることもありますが、周囲を見回しても、診断士での独立が失敗しやすいという事例や悩みは聞いたことがありません。
それぞれ生きてきた環境の違いや経験値の差、また独立後の生活についての解釈の違いがあるとは思いますが、私が知る限りの解釈で以下深掘りしていきましょう。

独立診断士としての「生き方」

皆さんもご存じのとおり、中小企業診断士の活躍の場は独立だけではなく、企業内診断士、公的機関勤務、金融機関勤務、コンサルティング会社勤務など、様々なタイプがあります。各自の強みや志向に合わせて、柔軟なキャリア選択が可能な点も中小企業診断士の魅力と言えますね。

独立診断士の数と傾向

中小企業診断協会のアンケートによりますと、診断協会の会員診断士の約48%が独立診断士との情報があり、その割合は増加傾向にあると聞きます。

選択肢 回答数 構成比(%)
中小企業診断士として独立している 904 47.8
2年以内に独立したい 140 7.4
5年以内に独立したい 161 8.5
10年以内に独立したい 142 7.5
予定はない 515 27.2
無回答 30 1.6
回答数計 1,892 100.0

(出典:企業診断ニュース別冊 2023年2月)

中小企業診断士の年齢のボリュームゾーンは50代、60代、40代となっており、ある程度経験を積んだベテランであることが垣間見えますが、最近では30代の若手独立も増加しており、IT、Webマーケティングなど、新分野での活躍も目立ちます。

独立診断士の年収

コンサルティング業務日数の合計が100日以上(つまりほぼプロコン)の方にとったアンケートがあります。

選択肢 回答数 構成比(%)
300万円以内 83 14.3
301~400万円 51 8.8
401~500万円 58 10.0
501~800万円 124 21.4
801~1000万円 66 11.4
1001~1500万円 89 15.4
1501~2000万円 39 6.7
2001~2500万円 25 4.3
2501~3000万円 16 2.8
3001万円以上 28 4.8
合計 579 100.0

(出典:企業診断ニュース別冊 2023年2月)

独立診断士の年収は個人差が大きいことは否めず、経験や専門性によって変動します。
一般的には、初年度から3年目は300万円〜500万円、4年目以降は500万円〜800万円、ベテランになると800万円以上というイメージが多いのではないでしょうか?(筆者調べ)。
トップクラスでは2000万円を超える例も多くあり、また期間としても開業から数年で2000万円など到達される方もいらっしゃいます。

独立中小企業診断士の実例

独立診断士の実例として、たとえば、私の知っている独立診断士の方では以下のような方々がいらっしゃいます。

① 製造業出身の50代男性。生産性向上のコンサルティングを得意としている。前職の経験を活かし、現場改善で高い評価。補助金業務にも関わり、年収900万円以上。
② IT業界に転職した30代女性。創業支援やDX支援に注力。自らもプレイヤーに近い立ち位置で深く入り込み、多忙な様子。年収650万円程度か。
③ 元銀行員の50代男性。事業再生と財務改善が強み。地域金融機関との太いパイプを活用。年収1300万円程度か。
④ 元コンサルの30代男性。DX特化。専門知識で差別化を図る。「時給1万円」と自己評価。年収2000万円程度か。
⑤ 製造業出身の40代男性。10社以上の顧問を引き受け、日本全国を飛び回っている。継続的な支援を得意としており、クライアントとの信頼関係構築が上手い。年収1500万円程度か。

中小企業診断士の独立が失敗する原因

なにをもって独立の成功、失敗とするかは人それぞれだとは思いますが、ここでは、失敗の定義を
「売上(収益)が本人が想定した目標値に届かない」という風に定義させていただきます。
その前提で、中小企業診断士の独立が失敗する大きな原因として3つあると考えています。

中小企業診断士の独立が失敗する大きな原因

①独立コンセプトがあいまい
②情報が入ってこない
③経営者へのリスペクトが足りない

①独立コンセプトがあいまい

まず1つ目が「独立コンセプトが曖昧である」ということ。
言い換えると、「なぜ自分が独立したいのかはっきりしない」ということです。

「今の職場環境が嫌だから」「なんとなく自分を変えてみたい」といった内向きの理由であれば、たとえそれがきっかけであったとしても、その先に何もなければ長続きしにくいです。

解決策としては、まず自己分析を徹底的に行い、自身の強み、情熱、市場ニーズを明確にしましょう。
そして、それらを組み合わせた具体的な独立ビジョンを策定します。
「誰に、何を、どのように提供するか」を明確にし、その価値提案が市場で通用するか検証します。
明確な目的意識と独自の価値提案があれば、困難に直面しても粘り強く活動を継続できます。

②情報が入ってこない

独立が失敗する要因として2つ目は「情報不足(情報入ってこないこと)」です。

情報不足は、市場動向の把握や新規顧客獲得の障害となり得ます。
この問題を解決するには、積極的なネットワーキングが必要ですから、診断士の会合やセミナーやイベントへの出席を通じて、同業者や潜在顧客とのつながりを広げましょう。
人との繋がりでしか得られない貴重な情報というのはたくさんありますので、情報源を多様化し、常にアンテナを張ることで、ビジネスチャンスを逃さず、競争力を維持できます。

③経営者へのリスペクトが足りない

そして最後に診断士の独立の失敗原因として「経営者へのリスペクト不足」が挙げられます。

過去にこんな事例がありました。
ある製造業の会社の社長さんへ企業診断と課題解決の提案に入った際に、私としては現状の組織体制に大きな改善余地があると思い、組織体制を大きくガラッと変える改善提案を行いました。
結果としては、社長には刺さらず、社長としては一言、

社長
「もうそんなことはとっくに考えてるから、こんなプレゼン続けるんだったら寝るで。」

ということでした。

私は当時、自信満々で社長に提案資料を持って行ったつもりでしたが、このように結果としては全く思うようにはいきませんでした。
これは、私としては社長が考えて行ってきたこと(組織体制の検討を含めて)に対してリスペクトが足りなかったわけです。
社長のやってきたことの意図、今の現状に対する社長の考えに対するリスペクトを持って、ヒアリングから提案に至るまで臨んでいたらまた結果は変わったことでしょう。

以前、私が信頼する診断士の方にこう教えていただきました。

「相手の考えを否定することは非常に気を払うべきことであり、正論を言うことが必ずしも社長にとって良い提案になるわけではない」

この考えは私自身とても大切にしている考え方です。

このように、経営者へのリスペクト不足は、信頼関係の構築を困難にし、コンサルティングの効果を低下させます。
リスペクト不足の状態では、どんなに良い提案であったとしても基本的に社長の心には刺さってくれません。

まずは経営者の立場に立って考える習慣を身につけ、経営者が直面している課題や重圧を理解し、共感する姿勢が重要です。
これに加えて、助言を行う際も、一方的な助言ではなく、対話を通じて解決策を共に見出す姿勢が大切です。
経営者の成功事例を学び、その努力と決断力を評価する視点を養うことで、より深い信頼関係を築き、効果的な経営診断が可能になります。

これさえできれば診断士の独立は失敗しない

中小企業診断士が独立するにあたって、「これはやっておいたほうが良い」と思われる要素をいくつかご紹介したいと思います。

中小企業診断士の独立でやっていきたい要素

①差別化戦略の構築
②ネットワーキングとパートナーシップ
③継続的な自己投資と学習
④多様な収入源の確保

①差別化戦略の構築

診断士として成功するには、自身の「強み」を明確にするこれが最も重要ではないかと考えます。

中小企業診断士の世界では、他の診断士と差別化することが不可欠です。
特定の業界や分野に特化したり、独自の診断技術を磨いたりすることで、クライアントに選ばれる理由を作り出せれば最高です。
そこまで尖りきらなくても、自身の経験や専門知識を活かし、ニッチな市場でクライアントに見つけていただくことも手です。差別化することによって、高単価での受注や継続的な顧客獲得が可能になります。

例えば私の場合、マスコミ業界、メディア関係の診断は強みとできます。また、決算書を深く読み込めますので、社長のお話と併せて現状をつぶさに把握できます。そして、会社の目指す目標、あるべき姿を共有することで、より社長に寄り添う診断と助言に結びつけることができます。

②ネットワーキングとパートナーシップ

独立診断士にとって、ネットワークの構築も大変重要かと考えます。特に同業者同士の関係づくりに積極的に取り組みましょう。
経験上、中小企業診断士は他の士業に比べて同業同士の接点やコミュニケーションがより深いと考えています。
セミナーや交流会への参加や共同プロジェクトの実施などを通じて、信頼関係を築いていけると良いでしょう。また、自身の「弱み」が分かっている人ならば、補完できるパートナーを見つけて協力関係を構築することで、より幅広い案件に対応できるようになります。

私の場合、養成課程で知り合った同志や先輩、先生方との定期的な触れ合いを通じて、知り合いの知り合い、といった拡げ方でネットワークを築こうとしています。

③継続的な自己投資と学

中小企業診断士は5年毎に登録更新をする必要があり、継続的な学習が求められています。
最新の経営理論やテクノロジーのトレンドを常に把握し、自身のスキルを磨き続けることが重要です。セミナーや研修への参加や情報交換の場への出席など、様々な方法で知識を更新しましょう。また、実際の案件を通じて得た経験を体系化し、自身の知見として蓄積していくことも大切です。

私の場合、大阪府診断協会や大阪診断士会で開催されるセミナーや研修にはなるべく参加するようにしています。その他の機関で開催されているセミナーも多くチェックしています。同じテーマでも講師によって議論の運び方や結論が異なることもままあります。

④多様な収入源の確保

独立診断士の安定した経営には、できるだけ複数の収入源を確保することが重要です。
経営診断業務だけでなく、セミナー講師、執筆活動など、様々な形で収益を得る方法を模索しましょう。

そのためには自らの「稼働率」をどのように割り振るかという考え方も重要になってきます。
アウトプットとインプットの時間配分なども熟慮せねばならないポイントです。特定の案件や顧客に依存しすぎるリスクを軽減し、安定した収入を確保できるようになれば最高ですね。異なる収入源を持つことは市場の変化にも柔軟に対応できるようになるなど好循環を生み出してくれると思います。

私の場合は、「実業を伴う診断士」を目指していますので、1週間(5日)を大きく2つに割り、週2日程度は診断士としての業務、週2日は実業に就く日、残りの1日はインプットを中心に活用する日として大きく分けて考えます。曜日で分けても、お客様の都合などに左右されますので厳密には難しいですが、頭の中の稼働率イメージを持っていると、仕事が詰んだり重複したりせず、柔軟に対応できます。

中小企業診断士で独立を考えている全ての方へ

独立することへの不安や迷い

独立するということは、ある組織からの離脱を意味します。その怖さは独立を志した方でないと分からないと思います。
これまでの会社や事務所が自分と合わない、とすっきりした気持ちを持たれている方もいらっしゃるかと思いますが、そうであっても一抹の不安は残るものです。それは社会との接点をその組織を通じて行ってきたからであって、そのタガがはずれると、本当に社会人の一員でいられるのか、その点が不安になるからだと思います。
でもきっと大丈夫。独立する人は皆その経験を越えて、立派に社会にアクセスできるようになっておられます。

収入の不安定さと資金管理

独立するにあたっては、私は最低2年分の生活できる資金を貯蓄しておくべきと考えます。
つまり、仕事がゼロの状態が2年続いたとしても生きていけるという余裕が欲しいということです。リミットが少ないほど気持ちに焦りが出てきます。
1年目はとにかく挑戦。そこからさらに1シーズンチャレンジできると思えば、気持ちの好循環が生まれ、事業展開も正のスパイラルに向いていくものと考えます。

おわりに

色々話してきましたが、一言で言えば、これまでのキャリアの棚卸を行い、専門領域の方向性を決め、学びやネットワーク構築を怠らず、紹介いただいた仕事を金額の多寡にこだわらず一所懸命にこなしていけば、必ず道は拓けるということに尽きます。

これらは何も中小企業診断士の独立だけに当てはまるものではありません。逆に言えば、中小企業診断士だけが独立に失敗しやすいという理由はどこにもないということになります。謙虚に、真摯に、感謝を忘れず日々進んでいきましょう!

この記事を書いたコンサルタント

中小企業診断士

山田和年

関西の放送局にて、経営戦略、財務、人事(労務)などの管理業務部門に長年携わる一方、 編成や制作といった放送局ならではの実務も務め、プロデューサーとして組織マネジメントを10年以上担当。 現在は小規模M&Aを通じてサラリーマンの企業を応援する業務に挑む。

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