はじめまして、戸田と申します。私は金融機関に勤務しています。金融機関では法人のお客さまの人的資本経営をご支援し、地域経済の発展に貢献しています。地域の皆さまとともに成長し、共に未来を築くお手伝いをしていくことを使命としています。
どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、中小企業の皆さま向けに、「健康経営」のすすめについてお伝えしたいと思います。なぜ今回この記事を書こうと思ったのか。それは私自身が働く上において「心身の健康」を最も大切にしているからです。私の会社では健康経営を積極的に実践しており、私も食事や睡眠、ストレス面には特に留意しています。
加えて、現在日本が直面する少子高齢化により、労働力不足が深刻な問題となっています。特に中小企業の皆さまにおかれましては、人材の採用や定着において苦慮されているものと推察いたします。そこで企業の魅力を高め、持続的な経営を実践すべく、「健康経営」のすすめについてご説明していきたいと思います。
健康経営とは
健康経営とは何か。経済産業省の定義によると「従業員の健康管理を経営的視点から捉え、企業の持続的成長を目指す経営手法」と書かれています。
つまり、「企業が従業員への健康投資を行うことで、優秀な人材の獲得や定着、さらには組織の活性化につながり、結果として業績向上といった効果が期待できる」ということです。
具体的には、職場環境の改善、メンタルヘルス対策、健康診断の徹底、健康教育プログラムの提供など、幅広い取り組みが含まれますが、これらは単なる従業員のための福利厚生ではなく、従業員への健康投資を行う企業の経営戦略であると言えます。健康経営とは単なる「健康管理」ではなく立派な「経営戦略」なのです。
出所:ACTION!健康経営
なぜ、健康経営が求められているのか
先ほど、健康経営についての概要をお話しましたが、近年なぜ健康経営が求められるようになってきたのでしょうか。ここでは3つの背景についてお話していきます。
まず、1つ目は、少子高齢化による労働力人口の減少が挙げられます。若年層の労働者が減少しており、企業の労働力確保が難しくなっているためです。
2つ目は、社会保障である医療費や介護費の増加です。高齢社会において、医療費や介護費が増加しており、国や企業の財政負担が大きくなっています。企業が健康経営を実践することで、従業員の予防医療や健康管理による健康リスクを減少させ、医療費の抑制につなげることができます。
3つ目は、働き方改革やワークライフバランスの改善です。夫婦共働き世帯の増加などを背景に、企業が従業員の仕事と生活の両立を支援し、心身ともに健康で働ける環境を整備することが求められています。またSDGsなどの浸透により、従業員の働きがいや働きやすさも重視されるようになってきています。
以上のような背景から、従業員の生産性を最大限に高めるための健康経営が求められるようになり、中小企業においても健康経営を実践する企業が増加しています。
1.少子高齢化により、企業の労働力確保が難しくなっていること
2.医療費や介護費といった社会保障費を抑制させる国の方針
3.働き方改革やワークライフバランスへの注目
健康経営のメリット
ここでは、健康経営のメリットや効果についてお話いたします。健康経営に取り組むメリットには、以下のようにさまざまなステークホルダーに対するメリットがあります。
1.従業員・就職希望者からの安心や信頼
2.取引先やビジネスパートナーからの信頼
3.消費者からの信頼
4.金融機関・投資家からの信用、評価
5.自治体等、地域社会からの信用、評価
健康経営の効果
では、健康経営を実践することでどのような効果が得られるのでしょうか。私は以下の3つがあるのではないかと考えています。
1.労働生産性の向上
2.医療費の削減
3.離職率の低下
1.労働生産性の向上
1つ目は、労働生産性の向上です。健康な従業員は仕事に対するパフォーマンスが高く、業務効率が上がることで、全体的な生産性の向上が期待できます。
2.医療費の削減
2つ目は、医療費の削減です。従業員の健康が改善されることで、医療費や保険料の負担が軽減されます。社会保険料は医療費に基づいて計算されているため、負担軽減につながります。
3.離職率の低下
3つ目は、離職率の低下です。健康経営を推進する企業は、従業員満足度が高くなり、職場に対するエンゲージメントが高まります。これにより、離職率が低下し、安定した労働力の確保が可能となります。
以下のグラフでは健康経営を実践する企業は実施していない企業と比べて離職率が低い傾向にあることがわかります。
健康経営優良法人とは
ここまで健康経営の概要やメリット・効果についてお話いたしましたが、健康経営を実践する企業に対し、国が顕彰制度として見える化した「健康経営優良法人」というものがあります。健康経営優良法人とは、経済産業省が実施する認定制度であり、健康経営に積極的に取り組んでいる企業を制度として認定しています。
中小企業における認定取得企業数は約16,733社(2023年度)と年々増加しており、今後も増加していくことが見込まれています。認定企業は以下のロゴマークを名刺やホームページなどで使用し、社内外にPRすることができます。
皆さまもお取引先さまなどとの名刺交換の際には、以下のロゴが入っていないか確認し、ロゴが入っていれば健康経営の話をうかがって、リアルな声を聞いてみられるのも良いでしょう。
健康優良法人認定取得のメリット
では、健康経営優良法人の認定を受けることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下では3つのメリットをご紹介いたします。
1.対外的なイメージ向上
2.優秀な人材が採用できる
3.各種補助金申請時の加点や金融機関による利率優遇等
1.対外的なイメージ向上
1つ目は、対外的なイメージ向上です。
イメージ向上によりお取引先さまなどのステークホルダーとの信頼関係が構築できるだけでなく、健康経営の取り組みが社内外に評価されることで、従業員のモチベーション向上や組織全体のエンゲージメント向上が期待できます。
2.優秀な人材が採用できる
2つ目は、 優秀な人材が採用できる可能性がグッと上がります。
採用市場において、働きやすい職場環境を提供していると評価され、優秀な人材の採用・定着につながります。就活生や転職活動者に対するアンケートでは「企業が健康経営に取り組んでいるかどうか、健康経営優良法人の認定を取得しているかどうかが就職先を決める際の決め手になりますか」という質問に対して、以下のとおり約6割が決め手になると回答した結果が出ています。
出所:ACTION!健康経営
3.各種補助金申請時の加点や金融機関による利率優遇等
3つ目は、ものづくり補助金や事業再構築補助金などの各種補助金申請時の加点、自治体が行う公共事業の入札審査時の加点評価が得られます。また日本政策金融公庫など金融機関融資の利率優遇や、保険会社による保険料の割引などの優遇を受けられるなど、さまざまなメリットが享受できます。金融機関による優遇については下表にまとめておりますので詳細は各ホームページをご参照ください。
金融機関名 | 制度名 | ホームページ |
日本政策金融公庫 | 働き方改革推進支援資金 | 日本政策金融公庫(働き方改革推進支援資金) |
池田泉州銀行 | 人財活躍応援融資 “輝きひろがる” | 池田泉州銀行(人財活躍応援融資 “輝きひろがる”) |
みなと銀行 | 各種個人向けローンの金利優遇 | みなと銀行(各種個人向けローン) |
兵庫県信用保証協会 | 技術・経営力発展保証「スター」 | 兵庫県信用保証協会(技術・経営力発展保証「スター」) |
奈良県信用保証協会 | SDGs 健康経営に取り組む企業さまへの保証制度 ”SDGs推進保証” | 奈良県信用保証協会(SDGs推進保証) |
※関西の金融機関のみ。以上の一覧は2024年7月1日時点のものであり、新規に優遇制度を実施した金融機関、もしくは制度を取りやめた金融機関が発生している可能性があります。
次に、健康経営の進め方や健康経営優良法人の申請についてお話していきます。
健康経営の進め方
ここでは、どのようなステップを経てどのように健康経営を進めていけばいいのかについてお話いたします。
健康経営を進めていく上での第一歩として、まずは企業として「健康宣言」を行うことが必要となります。
この宣言は、企業の経営者が従業員の健康を重視し、組織全体で健康経営に取り組む意思を明確にするものです。
具体的には、健康増進に関する方針や目標を設定し、社内外に向けて発信することで、従業員の意識向上と行動変容を促し、健康経営の基盤を築くことができます。
以下では、健康経営を進めるため、4つのステップを説明いたします。なお今回は中小企業の皆さまを対象にしておりますので、中小企業の大半が加入している全国健康保険組合(以下協会けんぽ)と連携していくことを前提にお話ししていきます。
経営者が、事業所全体で健康づくりに取り組むことを宣言し、取り組み目標を設定します。
協会けんぽ所定の「健康宣言エントリーシート」(下は協会けんぽ大阪支部のエントリーシート)をFAXで送付し、協会けんぽが健康経営の取り組みをサポートする仕組みとなっています。
これが健康経営の第一歩となります。
※都道府県支部ごとにエントリーシートの書式は異なりますが、取り組みの流れはほぼ同じです。一例として、以下に協会けんぽ大阪支部の健康宣言リーフレットを掲載していますのでご参照ください。
(一例):大阪支部健康宣言リーフレット
健康宣言いただいた企業さまには、協会けんぽ(各都道府県支部)から「健康宣言の証」が送られてきますので、ホームページへの掲載や社内に掲示するなど、社内外にPRしていきます。
協会けんぽのホームページにも企業名が掲載されます。下は協会けんぽ大阪支部の「健康宣言の証」です。
協会けんぽの指導の下で、健康宣言した項目および目標に取り組んでいきましょう。
例えば「健康診断受診率100%を目指す!」や「健康保険委員を設置する」といった項目があります。
その他、協会けんぽでは35歳以上の被保険者様を対象に生活習慣病予防健診の費用補助を行っており、また健康経営に関するセミナーを開催しています。
健康づくりの専門家を御社に無料で派遣する「健康講座」サービスも利用できますので、積極的に活用し従業員の健康投資を行っていきましょう。
最後に、健康経営優良法人認定制度にチャレンジしてみましょう。
認定申請には、上述した協会けんぽでの「健康宣言」の実施が必須となります。健康宣言実施の上、中小規模の企業等を対象とした中小規模法人部門において「健康経営優良法人」が認定されます。
詳細は協会けんぽ大阪支部ホームページをご参照ください。
健康経営優良法人の申請方法
ここでは、ステップ④でご説明した「健康経営優良法人の認定申請の流れ」についてご説明いたします。
中小企業の皆さまが申請する中小規模法人部門では、前述の通り加入している協会けんぽへ「健康宣言エントリーシート」をFAXし、その上で「ACTION!健康経営」サイトより「申請書」をダウンロードし申請アップロードします。
申請書には、以下のような認定要件項目(健康経営優良法人2025認定要件)がありますが、ハードルはそれほど高くなく、申請料も16,500円(税込)となっていますので、是非皆さまもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
年度によって変わるかもしれませんが、例年申請期間は8月中旬~10月中旬までとなっておりますので申請期限にはご留意ください。そして審査の上、例年3月に認定企業が公表されます。
詳細は以下の「ACTION!健康経営」ホームページをご参照ください。
まとめ
以上、お話ししてきましたが、健康経営は、企業の持続可能な成長と従業員の幸福を両立させることができる立派な経営戦略であることをご理解いただけたのではないでしょうか。
従業員の健康増進を通じて、生産性の向上や医療費の削減、企業イメージの向上など、多くのメリットをもたらすだけでなく、健康経営優良法人として認定されることで、社会的評価の向上や優秀な人材の確保、各種制度における優遇措置などのインセンティブを享受することができることをお話いたしました。
これからの時代、健康経営は企業の競争力を高めるための不可欠な要素として、ますます重要性が増していくものと考えています。
本記事では健康経営の具体的な取り組み内容や他社事例まで詳細部分に触れることができませんでしたが、是非我が社でも健康経営に取り組みたいと感じていただければ幸いです。
健康経営を実践する企業さまが1社でも増えることを願っております。従業員の健康を大切にし、持続可能な経営を実現するために、健康経営を積極的に実践していきましょう。