中小企業の組織変革を成功に導く8つのプロセスを実例を交えて徹底解説!

LeaPath代表の中川です。
今回は、中小企業が組織変革を成功に導くための方法論について、述べていこうと思います。
経営は色々難しい問題がありますが、組織変革は最も難しい課題のうちのひとつです。ヒトの感情面がどうしても入りますから、ロジカルに物事を進めていくだけでは、なかなか達成できない課題です。

そこで、本記事では一般論と、中小企業のコンサルティングの中での事例を織り交ぜながら、成功へのカギをお伝えできればと考えています。

なぜ、いま中小企業で組織変革が必要なのか?

では、なぜ中小企業で組織変革が求められるのでしょうか。必要な理由は、外部要因と内部要因に分けられます。

主な外部要因 主な内部要因
・法規制の改正(労働時間規制など)・経済状況の変化(極端な円安など)・DX(デジタルトランスフォーメーション)の影響・競合や業界構造、顧客ニーズの変化

・パンデミックの発生 など

・経営ビジョンや経営計画が大きな変化・新規事業の検討・業績の低下・制度や組織、役職の形骸化

・離職者の増加 など

中小企業を取り巻く環境は刻々と変化しており、外部・内部の状況によって機動的に変化していかなければ、うまく対応することが困難になってしまいます。
様々な中小企業の経営者の方々が、自社のあるべき姿を実現するために、新しい組織を作ったり、組織の枠組みを変えてみたりなど、工夫をして組織変革を試みてはいるものの、なかなか社員に浸透せず、苦労されている方も多いのではないでしょうか。

しかしながら、ハード面(物理的なコト、モノ)を整備するだけでは、組織全体を方向展開することはできません。社員ひとりひとりに、“感情”と“理解の差”がありますから、私は中小企業の経営者の方と、組織変革についてお話しする際には、「ソフト面(意識やルール等の無形要素)にも目を向けて注力したほうが良い」と言っています。

では、ソフト面で注力すべきことはどのようなことなのかを説明していきます。

組織変革を成功に導くための手法ー筆者の実例を元に解説ー

変化の意義と構想の伝達

私が支援させていただいた、とある大阪の製造業A社の事例です。

この会社は、70年以上の歴史がある売上100億円程度の会社です。技術力に優れ、社員も誠実な方が多く、離職率も1%未満、給与も水準以上で、一見何も問題がない会社でした。
しかしながら社長の話を聞いていると、将来的な組織的問題を抱えていることが分かりました。
それは、既存市場の市場縮小により、業績が徐々に低下しているが、新しいことにチャレンジできない社風というものです。
その組織的問題の背景は、一部の役員による恐怖政治の名残と、新しい事業に参入したことがないという経験と意識の不足でした。

この会社が組織改革に成功した要因は、いきなり組織的な施策を矢継ぎ早に打つのではなく、社長と一部の役員自らが先頭に立って、変化するための意義と将来経営構想を半年間かけて社員に語り続けたことです。
半年間でどの部署のどの役職に理解してもらうのかというシナリオをすべて書き起こし、実行に移しました。

私はそのシナリオ作成の支援もしていたのですが、その時に社長が私に求められたことは、今でも組織変革に大切なこととして頭に叩き込んでいます。例えば、社員の性格、社員同士の関係性などを全てリストアップたうえで、誰に最初に伝えれば良いか、誰から誰に浸透させれば良いか、最初のうちは誰に言わない方が良いかなどのストーリーを描いて実行したのです。

重要なことは、組織変革には準備段階が必要であり、よくある施策を矢継ぎ早に導入するだけではうまくいかないことが多いということです。
組織変革の意義と将来構想を作成したうえで、どのようなストーリーで社内に浸透させていくかというソフト面を重視すると、うまくいくことが多いと思います。

組織変革の8つのプロセスの徹底

組織変革の8つのプロセスは、ハーバード大学ビジネススクール教授のジョン・コッターが提唱したチェンジマネジメントの手法です。
具体的な8つのプロセスとは、以下の内容です。上記の変革に成功した製造業A社の事例をもとに説明していきます。

組織変革の8つのプロセス

① 危機意識を高める
② 変革推進のための連携チームを築く
③ ビジョンと戦略を生み出す
④ 変革のためのビジョンを周知徹底する
⑤ 社員の自発を促す
⑥ 短期的成果を実現する
⑦ 成果を生かして、さらなる変革を推進する
⑧ 新しい方法を企業文化に定着させる

① 危機意識を高める

まず、プロセスにおける1つ目として、「危機意識を高める」必要があります。
より具体的には、「リーダーが経営環境をいち早く察知し、会社がどのような方向性に向かう必要があるのかということを社員に浸透させること」が重要となります。

<製造業A社の事例ープロセス①ー>

前述のように、私が実際にコンサルで携わったA社では、このプロセスに相当な時間をかけました。
また、既存事業のリスクを説いて周るのではなく、新規市場のチャンスを説いて周るシナリオを描いたことも奏功したと考えます。無駄に社員の不安を煽るのではなく、希望があるから変革したいというメッセージを伝えることが重要です。

② 変革推進のための連携チームを築く

プロセス①にて危機意識を高めたら、次に、各部門・各役職から人材を集めて、変革を主導するチームを築きます。

<製造業A社の事例ープロセス②ー>

実例ではA社において、役員と、特に変革熱が高まっている部課長を招集し、変革主導チームを作りました。
ここで社長が取った重要な行動は、「社内ネットワークが広く特に部下や他部署から信頼されている部課長を選んだ」という点です。
社長が社員数百名に説いて周るのは非現実的ですし、実務も変化させなければならないため、社員の影響力を行使し、ロールモデルを作っていきました。

③ ビジョンと戦略を生み出す

そしてプロセス②にてチームを構築・仲間が集まったら、次に明確な経営ビジョンと戦略を描き、活動を設計していきます。

<製造業A社の事例ープロセス③ー>

A社では、実際に社長を中心とした変革主導チームで、経営ビジョンと経営戦略(この時は5年間の中期経営計画)を描きました。

④ 変革のためのビジョンを周知徹底する

そしてプロセス④では、社内に周知し、ビジョンや戦略に共感してもらい、仲間の数を増やしていきます。組織変革には“数”が必要です。

<製造業A社の事例ープロセス④ー>

A社では、このプロセス④において、経営ビジョンと戦略を可視化した資料を、社長のみならず部課長に説明してもらいました。
重要な点は、ビジョンや戦略を社員に伝える際、「部課長に説明してもらったこと」です。社長の説明ももちろん効果的ですが、実務を司っている部課長の話の方が具体的で社員に浸透しやすいのです。また、ルールオブセブン(人は7回聞かないと覚えない)という前提を理解し、メール、掲示板、口頭(1on1)、社内勉強会、トップメッセージ、資料などの様々な手法で社内に浸透させていきました。

⑤ 社員の自発を促す

前プロセスにて社内周知により、従業員からビジョンや戦略への共感してもらった後、プロセス⑤では、実際にビジョンや戦略に沿った計画策定や実行を従業員にさせ、当事者意識を醸成します。

<製造業A社の事例ープロセス⑤ー>

A社は、社員の自発を促す際に、障害を徹底的に排除しました。社員が新たなことに挑戦しようと思っても、社員にはどうにもならない組織的障害があります。例えば、A社では部署間同士の対立などの問題もありましたが、その問題を解決するのは社員にとっては荷が重い事柄です。重要な点は、社長がその潜在的な問題を部課長から吸い上げ、社長自らが障害を取り除く行動をとり続けたことです。

⑥ 短期的成果を実現する

そして、実際に従業員に実行させた後、大事なのは「短期的成果を実現すること」です。短期的な成功を社内で積み上げることで、周りの協力者もさらに増え、変化を加速させることができます。

<製造業A社の事例ープロセス⑥ー>

A社には月刊の社内ニュースレターがあったのですが、そのニュースレターに社員の日々の頑張りや成果を社長のコメント付きで掲載し、社内イントラ上でも発信するようにしました。また、これは賛否両論がありますが、A社では新たに報奨金制度も作り、小さな成果を残した社員を表彰しました。
重要な点は、①~⑤の積み上げなく、報奨金制度を作っても効果は出にくいという点です。施策は、ソフト面を丁寧に醸成した上で導入することが重要です。

⑦ 成果を生かして、さらなる変革を推進する

次なるプロセスとしては、短期的な成功に浮かれることなく、挑戦過程の中での成功・失敗経験を活かして、最終的なビジョンが達成できるまで、変革を推進し続けます。

<製造業A社の事例ープロセス⑦ー>

A社では、長期ビジョンを達成するために、恐怖政治をしていた役員を「顧問」にし、新たに経験豊富な役員を外部から招聘しました。
良くない文化を徹底的になくし、かつビジョンを達成するためのネットワーク等を保有している人材にアプローチし、さらに変革が起こりやすい仕組みを作り上げていきました。
社内人材でできることに越したことはないのですが、大規模な変革の場合、社外の役員やコンサルタントの知見が必要なケースも出てきます。
その時に外部資源をうまく使えるかどうかということも、重要な点です。

⑧ 新しい方法を企業文化に定着させる

最後に、日々の業務に変化を組み込む設計をし、「変化が当たり前な会社文化」を築きます。

<製造業A社の事例ープロセス⑧ー>

A社社長は、①~⑦までを約2年半かけて実行し、⑧以降は後継者(ご子息)に託しました。
ご子息は、新たな文化を定着させるために「人事制度や目標制度の見直し」「ビジョンの練り直し」「組織の変更」などを中心に行い、変化の仕組みを設計してくことに注力しました。
社長は、「息子にやらせることで、この会社は変化が続くものだと社員に認識させたかった」と言います。正直圧巻でした。

おわりに

いかがでしたでしょうか。
A社は、私が今までコンサルタントとして携わった中で、組織変革を最も成功させた会社です。
ハード面だけでなくソフト面をしっかりと設計し、実行に移し、ある程度の期間を設けて組織変革していく重要性をご理解いただけたと思います。

A社の事例の他にも、私が今まで経験してきた組織変革のノウハウをまとめた動画「管理職研修Vol.7 チェンジマネジメント」も是非ご覧ください。

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また、リーパスでは組織変革の経験豊富なコンサルタントが多数所属しています。ご参考になった方は、是非実際にご依頼ください。

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この記事を書いたコンサルタント

中小企業診断士

中川 逸斗

同志社大学商学部商学科卒業後、IBMに入社し、広告、製造業、ゲーム会社などの大手企業の新事業構築、海外展開、IT戦略構築などのコンサルティング業務に従事。その後、デロイトトーマツコンサルティング合同会社入社し、鉄道、ガス、小売、製薬などの大手企業の経営戦略構築、調達改革、経営再編、M&Aなどのコンサルティング業務に従事。 その後、Tech系スタートアップの取締役を経て、現在は日本自動調節器製作所の経営企画室の室長、戦略系コンサルティングファームのマネージャー、HAL経営コンサルティング合同会社の代表、LeaPath代表の4足の草鞋(兼業)で活動中。現在まで、大手企業から中小企業まで、計30社50プロジェクト以上のコンサル経験を持つ。また、中小メーカーの管理統括も同時に行っているため中小企業目線でのコンサルを得意とする。専門領域は経営戦略・DX・人事。

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