LeaPath代表の中川です。
今回は、中小製造業の皆さま向けに製造業のDXの内容、必要性、注意点について説明していきたいと思います。
私は、コンサルタントをやりながら、製造業にも属し、双方の視点から複数の企業でDX化を推進してきました。
その中で、複数の企業様でニーズがあった内容を中心にご紹介していきます。
DXの定義
DXは、デジタルトランスフォーメーションの略です。
企業が、ビッグデータなどのデータとAIやIoTを始めとするデジタル技術を活用して、業務プロセスを改善していくだけでなく、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織、企業文化、風土をも改革し、競争上の優位性を確立すること。
つまり、最先端技術を活用し、競争優位を構築するために、ビジネスそのものを見直すということです。
これは、アナログではできなかったビジネスモデルや製品・サービスをデジタルの力を借りるとできることもあるということも意味します。
中小製造業のDXの必要性
では、なぜ中小製造業でDXを推進する必要性があるのか?ということですが、よく言われるのが、以下の5つです。
5つ全てに当てはまる企業は少ないかもしれませんが、どれかひとつには当てはまる可能性は高いと思います。
① 海外企業との競争激化
② デジタルディスラプターの存在
(※デジタルディスラプター・・・起業した時点からDXを駆使し低コストで市場に参入してくる企業のこと。)
③ 仕入価格上昇&顧客価格圧力
④ 人手不足
⑤ 労働生産性低下
このような中小製造業を取り巻く逼迫した環境を打破するためには、DX化は欠かせません。
特に少子高齢化で人手不足が深刻な日本においては、他の国に比べても逼迫している状況は否めませんし、特に製造業は、工程や技術が複雑で、アナログでの対応だけでは競争力を維持・向上するには厳しい状況です。
中小製造業のDXの主な領域
中小製造業のDXには、2つの目的と1つのベースがあります。
【目的1】先端技術等を活用することで、生産プロセスを改革・改善し、労働生産性を向上することで、変動費・固定費を下げるという目的
【目的2】先端技術等を活用することで、顧客ニーズに対応したり、新たなビジネスモデルを開発し、売上を上げるという目的
製造業においては、【目的2】以上に【目的1】の取り組みが多いように思います。
では、それぞれの目的ごとに、具体例を見ていきましょう。
【目的1】生産性向上による変動費・固定費削減
製造業のDXというと、工場全体がネットワーク技術により管理された「スマートファクトリー」が思い浮かぶかもしれません。
しかしながら、経験上大企業の事例にあるようなスマートファクトリーを実現できる経済的体力を持った中小企業はかなり少ない印象です。
スマートファクトリー自体は、その定義にもよりますが、数千万~数億で実現できるレベルのものは少ないため、あくまで本記事では中小企業でもできる内容に特化して述べていきます。
主なDX内容 | 対応した会社の売上規模 |
1.受注予測・故障予測・不良予測 | 100~500億円規模が中心 |
2.RFID | 10~50億円規模が中心 |
3.生産管理情報の共有とBIによる見える化 | 10~100億円規模が中心 |
4.技能承継 | 規模問わず |
1.受注予測・故障予測・不良予測
受注や故障、不良などの、XX予測を行いたいというニーズです。
受注予測の主な目的は、
調達・在庫・生産の最適化、受注に合わせた人員調整、マーケティングへの活用
などです。
最近特に、手元資金の増加を重視するキャッシュフロー経営が取り沙汰されているケースもあり、予測に応じた資源の割り当て(配分)は製造業の大きな課題のひとつとなっています。
最適な資源配分を行い、キャッシュフローを最適化し、経営を安定化させるとともに、労働生産性も同時に向上させたい会社が多い印象です。
一方、故障予測や不良予測の主な目的は、故障対応や不良対応に係る労働生産性の改善と、クレーム費用の削減などです。
実現方法は、十分なデータ基盤を活かしたAIによる時系列解析、LLM(大規模言語モデル)の活用などが挙げられ、私は双方経験しましたが、それなりに時間と資金を要するので、売上100億円以上の会社が多かったです。
しかしながら、実現範囲や内容によっては、100億円未満の企業でも可能ではあります。
2.RFID
RFID(Radio Frequency Identification)とは、電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステムのことで、バーコードとは異なり、電波で複数のタグを一気にスキャンすることができ、電波が届く範囲であれば、タグが遠くにあっても読み取りが可能です。
このRFIDを要望される企業の主な目的は、在庫の削減や決算業務の早期化です。
在庫にRFIDタグを付け、読み取りリーダーや専用ソフトなどを導入することで在庫管理の効率化を図ることができるためです。
中小企業では、決算締め~決算書作成までの期間が非常に長く、それに悩まされている経営者の方も非常に多いです。
「うちの経理は仕事が遅い」と言われる方もいますが、経理の方も一生懸命頑張っています。
遅くなる理由は、在庫の実棚処理に時間を要していることが多く、実棚そのものにも時間を要しますが、中小企業は受注生産の会社が多いため部品点数が多い事にも起因します。
加えて、製造業の場合は、仕入品、仕掛品、完成品などプロセスごとに棚卸作業をしなければならず、工程も複雑化している会社も多いため、多くの時間を割き、その結果として、決算が遅くなる傾向があります。
そこで、RFIDを活用した在庫管理を行えば、実棚の作業スピードを速くすることができ、決算早期化のみならず固定費の削減も可能になります。
さらに言えば、棚卸が簡単になるため、月次決算の実現にも寄与します。
3.生産管理情報の共有とBI(*)による見える化
個人的な経験上、生産管理情報の共有とBIによる見える化は、中小製造業の現場から最もニーズがある領域です。
中小製造業では、受注から調達・生産、出荷までデータが繋がっていないケースが多く、生産管理を行うために様々な紙やエクセルのデータを加工し、作成しています。
しかしながら、本来は受注~出荷までのデータは一気通貫で保持し、それぞれの現場に合わせた指標を管理し改善活動を行う必要があります。
それらを実現できれば、改善活動のPDCAを回すことができることや、状況を可視化することで改善活動のための根本的な原因を見出すことができるなど、様々なメリットがあります。あるいは、紙やエクセルでの加工作業もなくなるため、労働生産性の向上にも寄与します。
解決策としては生産基幹システムの導入、設備機器のIoT、クラウドDBを活用したデータの連結、それらのデータを活用したBI化です。
私が支援した例では、売上50億円程度の製造業で、年間固定費8,000万円を削減した事例があります。
基幹システム導入方法とBI化に関しては、リーパスで導入方法などを説明した動画がありますので、ご興味のある方は是非ご覧くださ
い。
【参考動画(有料コンテンツ)】
>>中小企業のための基幹システム導入方法
【目的2】ビジネスモデル等の進化による売上向上
DXの本質ともいえる、新たなビジネスモデルの進化や開発のDX領域では、特に難易度が高く、大企業でも苦労している印象です。
その中で、比較的多い依頼は、「マスカスタマイゼーションの実現」です。
マスカスタマイゼーションとは、少品種多量生産により生産コストを下げる「マスプロダクション」と、顧客の要望に応じて仕様変更を行う「カスタマイゼーション」の2つの生産方式を掛け合わせ、顧客の要望に応じながら大量生産を可能にすることです。
換言すると、様々な顧客ニーズに対応しながらも、コストを下げて生産するということです。
このニーズが比較的多い背景には、海外メーカー(特に中国、韓国、台湾など)の台頭にあると思います。とにかく海外メーカーはコストを下げることによって販売価格も安いことも多いため、日本メーカーは高付加価値だけでは対応できない現実論があります。
高付加価値+ある程度のコスト削減を実現しないと、見積の土俵に乗らないことも多々あります。
「中小企業は高付加価値に特化すれば良い」という論調もありますが、今の時代、これからの時代を考えると、現実論と少し乖離している部分は否めません。
マスカスタマイゼーションの実現方法は、
受注予測、
Web上で顧客に受注内容を入力してもらう受注プラットフォームの構築、
基幹システムによる部品共通化、
製造する工場の最適自動化
などがあります。
重要なことは、これらの施策を実現するには、まずは会社の中に散らばっている紙やエクセルの「情報」を「利活用できるデータ」に昇華させることです。
紙やエクセルの情報では、DB化、BI化、AIの実現は非常に困難を極めます。
ですので、まずはデータを整備することが、中小企業ができるDXの第一歩であると思います。
中小製造業が陥るDXの落とし穴
詳細は、「事例に学ぶ、成功するDXと失敗するDXの進め方」で説明しますが、本記事では、簡潔に注意点を説明します。
DXが失敗する理由は、大きく3段階に分けられます。
①方針の壁
(DX戦略や方針がなく、複数のプロジェクトが進む中で、目的を見失うとともに予算オーバーになる)
②データの壁
(DX戦略を作ったは良いが、社内データが整備できておらず、第一歩を踏み出せない)
③実行の壁
(データを整備したは良いが、エンジニアを中心としたDX人材の採用と育成が困難)
①方針の壁(DX戦略や方針がなく、複数のプロジェクトが進む中で、目的を見失うとともに予算オーバーになる)
方針の壁は、そもそもDX戦略や方針がないため、何から手を付けて良いのか分からないという状況に陥ることです。
戦略や方針がなければ、予算も組めないので、複数のプロジェクトを進めていくうちに、いつの間にか予想外の大きな投資が発生していたというケースもあります。
そのため、DX戦略や方針をきちんと作ったうえで、DX範囲と実現したいことをしっかりと定義し、進めていきましょう。
②データの壁(DX戦略を作ったは良いが、社内データが整備できておらず、第一歩を踏み出せない)
データの壁は、DX戦略を作り、やりたいことも明文化したが、DXに活用する社内の情報が紙やエクセルなどバラバラに点在しており、すぐに構想を実現できないという状況に陥ることです。
DX戦略を構築するにあたっては、社内でどのようなデータがあり、そのデータが利活用できる状態になっているかを確認したうえで、構築する必要があります。
③実行の壁(データを整備したは良いが、エンジニアを中心としたDX人材の採用と育成が困難)
実行の壁は、戦略も作り、データも整備したが、実際にDXを実現するための人材が社内におらず、かつ育成するノウハウも社内に存在しないという状況に陥ることです。
この解決策は端的に言うと外部業者をうまく使い、いかに社内に知見を移転するかということです。
いかがでしたでしょうか。
製造業のDXは上記に説明した内容以外にも様々な方法・手法があります。
まずはDX戦略を構築したい方は、「中小企業のためのDX戦略構築方法Vol.1インプット編」および「中小企業のためのDX戦略構築方法Vol.2アウトプット編」というリーパスの動画をご覧ください。
リーパスでは、各DXのプロフェッショナルが在籍し、プロジェクトの内容や必要性に応じて、メンバーを割り当てていますので、高品質を維持しながらも価格を抑えることができることが強みです。ぜひお気軽にお問い合わせください。