経営戦略って何?基本となる考え方や定義、種類について解説

LeaPath代表の中川です。
今回は、「経営戦略とはそもそも何なのか」ということを自身の経験も交えて具体的に説明していきたいと思います。

大企業~中堅企業では、戦略系コンサルティング会社や総合系コンサルティング会社が入って、将来の戦略を構築している会社も多いです。
中小企業でも経営戦略の案件はありますが、どちらかというと、ITや人事、財務など特定の領域での課題を解決する傾向が多いように思います。
しかしながら、実は中小企業にも、いや、中小企業だからこそ“経営戦略”が必要という側面もあります。
今回は、経営戦略は何か?という論点はもちろんのこと、そもそもなぜ“戦略”が必要なのか?ということにも言及しながら説明できればと思います。

経営戦略とは何かを解き明かす3つの視点

企業経営において、「戦略」という言葉をよく聞くと思います。しかしながら、戦略という言葉だけでは、フワッとしていますよね。
ですので、まずは戦略とは何か?について、整理する必要があります。

戦略を作る方法は、いくつもあります。ただ、“戦略の概念”については、様々な経営学者や経営者が定義していますが、それぞれ定義の仕方が異なり、どこか曖昧でぼんやりとしています。
少し主観も入りますし、約10年間という短い期間ですが、戦略コンサルタントやスタートアップ企業の経営者として従事してきた筆者に少しだけ語らせてください。

まず、戦略を定義付けする要素として、

1. 最重要課題に対するアクションプランであること
2. 複雑環境下での選択であること
3. ビジョンや理念とは異なること

の3つがあると思います。
一目見ただけではまだ現段階ではあまりイメージが湧きづらいと思いますので、これらについて、少し掘り下げていきたいと思います。

1.最重要課題に対するアクションプランであること

経営戦略とは、「最重要課題に対するアクションプラン」です。

経営には様々な課題が存在し、企業は、その課題を日々一つ一つ解決していると思います。
そして、その中で最も重要な課題は何か?それをどう持続的に成功させるのか?どうアクションプランに落とし込むのか?ということを考えるのが経営戦略です。

この“最も重要な課題”というのは会社によって変わります。
なぜなら、会社ごとに経営資源、外部環境、歴史、など様々なものが異なるためです。それゆえ、経営戦略も会社によって変わるべきであって、それが結果的に差別化の内容になり、競合に勝つための手段となり得るのです。
様々な課題が存在する中で、最重要である経営課題を導き出し、資源を投下することが経営戦略の一側面となります。

2.複雑環境下での選択であること

先ほど会社の課題は大小さまざまあると話しましたが、日常的な課題は各部署の部長が解決してくれています。
例えば人事課題の場合であれば、人事部の部長が大体は解決してくれています。(中小企業であれば社長であることもありますが)

基本的に部長・課長が社長に伝達する課題というのは、優秀な部長・課長でも判断できないようなグレーで答えのないものばかりです。
そして、外部環境に目を向けても市場の大小、顧客ニーズの変化、競合各社の動きなど変数が多く、とてもじゃないですが、“ただひとつの解”を導き出せないものです。
しかしながら、その変数を組み合わせていくと、市場で勝つための複数の選択肢は、揃えることができます。
そして、この選択肢こそが、前述の最重要課題とアクションプランなのです。
(戦略コンサルタントは、その複数の選択肢を客観的事実も踏まえながら、提示することが役割の一つです。)
それゆえ、“ただひとつの解”がない中での“意思決定”が経営戦略の一側面となります。その意思決定は、理路整然としたロジックだけでなく、様々な意志・感情・理念・経験・感覚が含まれています。

つまり、最重要課題とアクションプランを導き出し、かつそれを意思決定する一連の流れが経営戦略ということです。
これは経営者の仕事であり、かつこれを支援するのが戦略コンサルタントです。

3.ビジョンや理念とは異なること

そして最後に、「ビジョンや理念とは異なるということ」、は申し上げておく必要があります。

例えば5年後にこうなりたい!というビジョンや、わが社はこうあるべき!だという理念と、経営戦略は異なるものです。
もちろん、経営戦略は、ビジョンや理念に則って構築されるものなので、関連性は極めて強いです。しかしながら、経営戦略と概念が異なるということをご理解いただければと思います。
前述のように、経営戦略は、こうなりたい!こうあるべき!というビジョンや理念をもとにして、最重要課題を導出し、経営で勝つためのアクションプランを構築することですから、願望や野望、行動規範とは似て非なるものです。
「勝つための最大確率をもとにした意思決定」であるということです。

経営戦略のない会社では、ビジョンや理念からいきなり各部のアクションを作りますから、その各アクションが勝つための最大確率をもとにした意思決定になっていない可能性が高いです。そういう意味でも経営戦略は重要です。

まとめると、経営戦略とは、

経営戦略の定義
複雑な環境下から導き出される、「市場で勝つための企業の最重要課題とそのアクションプラン」の複数案を、経営者が意思決定する一連の行動

であると、私は解釈しています。(解釈は様々なので、異論も大歓迎ですが)

経営戦略の必要性

中小企業の社長や中小企業診断士、税理士、社会保険労務士の方からも、「戦略って必要ですか?」と聞かれることがよくあります。
答えはYesです。

戦略がないIT・人事・生産・財務施策も、意味がないとは言いません。
しかし、戦略があるうえでの施策と何が違うかというと、「見ている視座が違うため、スケール感が異なる」ということなのです。どちらが良いか悪いかの話ではなく、ただ相違しているだけのことです。

経営者や戦略系のコンサルタントとして見るべきは、例えば、5年後に向けて、持続的に(どんな状況や脅威が来ても会社が持続して)どう勝つか?ということであり、そのためには今何をしなければならないか?ということを逆算的に考えていく必要があります。
この「○年後に向けて、持続的にどう勝つか?」という部分が戦略の肝になります。

最終的に、企業は利益を上げる必要がありますから、一部の施策だけでなく、市場で勝つためには、どの分野で勝負して、どこに経営資源を投下しなければならないかを、まず考える必要があります。その戦略の上で、人事・IT・生産・財務など各機能別の最適なアクションが決まるのです。
その意味では、戦略のない各機能別のアクションは、市場で勝つためのアクションになっていない可能性が十分にあるのです。

私も昔、戦略というものを勘違いしていて、近視眼的な施策の提案ばかりしてしまい、中堅企業の社長と全く話が嚙み合わない(私の力不足で)ことが、多々ありました。
経営者の多くが、未来を見据えて、逆算的にどのような経営アクションをとるべきか、ということを考えているので、そうなってしまうのは当然です。

ふたつ事例を挙げます。

ひとつめは、とある大阪の中小企業との社長のお話です。
中小企業診断士のチームとして、その会社の社長に提案をさせていただいた際、
我々は「“両利きの経営”を基軸にした経営を行っていくことを提案します。なぜなら~」ということを申し上げたときに、社長が非常に興味を持たれ、共感していただきました。(他の経営者と数日前に、両利きの経営で進めていくという話をされたとのことでした)
※両利きの経営・・・既存事業をより改善し、深めていきながら、新規事業の展開を両立させる経営のこと。

つまり、何が言いたいかというと“できる経営者”の特徴として、常に経営戦略や企業の方向性を考えながら、ひとつひとつの施策を見ているということです。いきなり機能別の戦術(IT・人事・財務など)を提案しても、なかなか経営者の共感は得られないのです。

ふたつめは、とある大阪の医薬品関連の中小企業の役員(取締役)とのお話です。
この会社は、経営ビジョンはあるが、経営戦略がなく、いきなり各部の施策を作っている会社で、業績はイマイチでした。
そこで、経営戦略の重要性について役員と協議したのですが、
「経営戦略自体が間違っていると、すべてのアクションが間違うリスクがある。だから我々は経営戦略を作ることが逆にリスクなので、経営戦略は作らない」ということを仰っていました。

お気持ちは分かります。しかしながら、前述のように、経営戦略とは複雑な環境下から導き出される、「市場で勝つための企業の最重要課題とそのアクションプラン」の複数案を、経営者が意思決定する一連の行動を指すので、これを怖がるようでしたら、経営者として何ができるのだろうか?ということになってしまいます。というのも各部の施策は各部の部長が作っているため、その上の概念となる経営戦略については経営者が腹を括って考える責務があるためです。
また、この意見として、一度作った経営戦略は変えられないという前提に立っていますが、経営戦略は経営理念とは異なり、環境の変化によって随時見直すべきなのです。

このように、経営戦略についての価値観は様々ありますが、少なくとも言えることは、経営戦略を考えることは経営者の仕事、であるということです。
特に中小企業は、大企業と違い規模が小さいため、従業員一人ひとりの行動・活躍が経営に直結します。
それゆえ、中小企業だからこそ“経営戦略”を作り、経営者および従業員が一丸となってベクトル合わせをしていく、そのようなことが求められるのです。

まとめると、経営戦略が必要な理由は、

経営戦略が必要な理由
戦略なき施策は、市場で勝つための施策になっていない可能性が十分にあり、中小企業では特に、従業員一人ひとりの行動が経営に直結するため、経営戦略をもとに会社全体でベクトルを合わせ、資源を投下すべきであるため。そして、それを考えることが経営者の仕事であるため。

ということが言えます。

経営戦略の全体像

ここまで、経営戦略の定義と、経営戦略が必要な理由を説明してきたので、最後に経営戦略の全体像を説明します。
以下図を見てください。

<経営戦略の全体像>

経営戦略は、複雑な環境下(外部環境や内部環境)で経営理念や経営ビジョンに則りながら作るものというのは前述の通りです。
加えて、経営戦略は、広義の意味では全社戦略、事業戦略、機能別戦略すべてを含みますし、狭義の意味では全社戦略のみを指します。

全社戦略では、会社の方向性(攻めるべき市場や優先すべき事業など)と全社目標値を作り、
事業戦略では、全社戦略に基づいて、対象となる市場で競合にどう勝つかということを定義し、
機能別戦略で、事業戦略を実現するために、どのような施策を打つか?ということを定義します。

この流れを見ると、全社戦略や事業戦略がないまま、経営ビジョンから施策に落とし込むと、会社の方向性、全社目標値、どう市場で競合に勝つか?という視点がないまま施策を打つことになるので、前述のとおり、戦略なき施策は、市場で勝つための施策になっていない可能性が十分にある、ということがご理解いただけたかと思います。

リーパスでは経営戦略が専門の士業が多数在籍しています。ご興味がございましたら、是非お問い合わせください。

この記事を書いたコンサルタント

中小企業診断士

中川 逸斗

同志社大学商学部商学科卒業後、IBMに入社し、広告、製造業、ゲーム会社などの大手企業の新事業構築、海外展開、IT戦略構築などのコンサルティング業務に従事。その後、デロイトトーマツコンサルティング合同会社入社し、鉄道、ガス、小売、製薬などの大手企業の経営戦略構築、調達改革、経営再編、M&Aなどのコンサルティング業務に従事。 その後、Tech系スタートアップの取締役を経て、現在は日本自動調節器製作所の経営企画室の室長、戦略系コンサルティングファームのマネージャー、HAL経営コンサルティング合同会社の代表、LeaPath代表の4足の草鞋(兼業)で活動中。現在まで、大手企業から中小企業まで、計30社50プロジェクト以上のコンサル経験を持つ。また、中小メーカーの管理統括も同時に行っているため中小企業目線でのコンサルを得意とする。専門領域は経営戦略・DX・人事。

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