LeaPath代表の中川です。
今回は、赤字経営を立て直すための対策について述べていこうと思います。
私は、再生専門のコンサルタントではありませんが、今まで恒常的に赤字が発生している企業1社、債務超過の企業1社のコンサルティングを行ったことがあります。赤字の中でできることは沢山ありますが、自身の経験を踏まえて効果的であった対策を、いくつかご紹介していきたいと思います。
赤字企業の統計
まず、赤字企業がどの程度存在するのかを見ていきましょう。
【図1】赤字企業の割合
(参照)「国税庁 令和3年度分会社標本調査結果について」をもとに筆者作成
全体の法人数は、284万8518社で、うち利益計上法人(黒字)は109万917社で、利益欠損法人(赤字)は175万7601社であり、全法人に占める61.7%が赤字ということになります。意外と多いですよね。
赤字企業もおそらく多数の経営改善を実施されていると思います。
本記事で、それらの経営改善の方向性は果たしてあっているのか?追加でどういうことをすべきなのか?という点を、伝達できればと思っています。
赤字経営はそもそもダメか?
次に、「赤字経営はそもそもダメなのか?」という前提について、定義していきます。
赤字になるのは、様々な状況が考えられます。
経営手法がイマイチで赤字になっている企業もあれば、成長に際して多大な積極投資をして一時的に赤字になる場合、節税を目的として、あえて赤字にしている場合などがあります。
逆に黒字であっても資金繰りがうまくいかず、黒字倒産になるケースもありますね。
ですので、赤字=経営改善が必要という一側面での議論は逆に危険であることもあります。
例えば、世界を代表する企業であるAmazonも、1994年から赤字が続き、初めて黒字達成したのが2003年度であったことは有名な話です。
比較的少ないですが、将来を見据えた多額の投資によって赤字になっているケースもあるため、背景や目的の分析は重要です。
また、赤字にも複数の種類があります。
① 営業赤字:本業における利益がマイナスになっている状態
② 経常赤字:経常利益がマイナスになっている状態
③ 当期純損失:「経常利益+特別利益-特別損失」という式で計算した際に、マイナスとなっている状態
④ 現金収支(キャッシュフロー)赤字 :手元の現金がマイナスになっている状態
例えば、多額の不動産売却損や有価証券売却損が出て、一時的に当期純損失が発生している場合や、ビジネスチャンスを適切に捉えて適切な投資によって一時的にキャッシュフローがマイナスになっている場合などがありますので、状況をきちんと把握する必要があります。
しかしながら、基本的には赤字は改善すべきです。当然、会社として利益を得られていない状態が続くと、キャッシュフローが悪化し、倒産リスクが高まるためです。
赤字経営の3段階
赤字経営は3段階に分けられると考えています。
第1段階:単年度赤字
第2段階:2~3期連続赤字
第3段階:恒常的な赤字(あるいは、債務超過の危険水域にある)
この段階に応じて、採るべき経営対策が異なってきます。
第1段階の単年度赤字は、前述のとおり、一時的なアクション(売却損や投資)で発生することも多いです。
この段階で重要なことは、そのような一時的なアクションによって発生した赤字なのか、例えば市場や外部環境の潮目が変わったことによる赤字なのかを見極めて後者であるならば、対策を立てる必要があります。
第2段階の2~3期連続赤字は、多くのケースで問題が発生している可能性が極めて高く、銀行融資にも影響が出てくる段階です。
早めの経営改善が必要であるといえるでしょう。
第3段階の恒常的な赤字で、かつ(中小企業の場合は特に)債務超過の危険水域にすぐに到達するため、早急に企業経営を立て直す必要があります。
赤字経営の3段階によって採るべき対策
第1段階:単年度赤字
第1段階の単年度赤字の場合、現状の整理が最も重要です。
単年度赤字は、前述のとおり、一時的なアクション(売却損や投資)で発生することも多いです。
この段階で重要なことは、どのような要因で赤字になったかをきちんと分析して整理することです。
これにより、一時的なアクションによって発生した赤字なのか、例えば市場や外部環境の潮目が変わったことによる赤字なのかを見極めて後者であるならば、対策を立てる必要があります。
実際に私のこれまでの経験の中で、単年度赤字で効果的であった対策を4つ列挙します。
① 経営状況分析
② 管理会計の整備
③ 営業・マーケティング強化
④ 資源配分の変更
①経営状況分析
外部環境では、特に市場や顧客データの分析が有効です。
ニーズの移り変わりの速い現代ビジネスにおいては、1年で大きく潮目が変わることがあります。
具体的には
・「セグメント別の市場規模・成長率や売上・利益率」
・「競合他社のベンチマークと分析」
・「顧客ニーズや潜在ニーズの整理」
を推奨します。
詳しくは、動画「経営戦略構築手法Vol.2アウトプット編-中小企業の経営戦略のセオリーとは?」をご覧ください。
②管理会計の整備
仮に管理会計が不十分な会社がありましたら、赤字を機に管理会計を見直されてはどうでしょう。
上記、経営状況を分析する際に、「顧客別の売上データがうまく取れない」や「商品別の利益が出せない(出せたとしても、利益計算基準が曖昧)」などの問題が出てくる可能性があります。
将来の効果的な経営計画作成のことも考え、管理会計の仕組みは整備しておくことが望ましいと思います。
詳しくは、動画「中小企業のための管理会計の勘所-管理会計を制すれば経営が変わる!-」をご覧ください。
③営業・マーケティング強化
営業・マーケティング強化は必須だと思います。
特に、中小企業は見積原価の部分の課題が多いです。
例えば、材料費などの変動費は見積原価として計算しているが、労務費などの固定費を見積原価として計算していない等です。
個人的に営業と経営企画は特に外部から採用した方が良いという風に、いつも推奨しています。
また、管理会計を整備したうえで、材料費などの価格高騰分を販売価格へ転嫁する対策も必要です。
第2段階:2~3期連続赤字
2~3期連続赤字の場合は、より根本的な解決が必要です。具体的には第1段階の売上・変動費を中心とした対策に加え、固定費と資金繰りにも目を向けます。
2~3期連続赤字で効果的であった対策を5つ列挙します。
① 資源配分の変更と経営リスクの分散
② 資金繰りの見直し、金融機関対策
③ 在庫の圧縮
④ 生産性の向上
①資源配分の変更と経営リスクの分散
儲かっている事業や商品、そうでない事業や商品を選別し、継続的に不採算が発生している事業や商品ならば撤退等の検討も視野に入れていきます。
もちろん、儲かっていないが将来性のある事業や商品もあるため、慎重な見極めが必要です。
逆に将来性もあり利益率も高い事業や商品に経営資源を集中させます。
また、経営リスクの分散という観点では、特定顧客への依存度を減らしたりすることも重要です。
②資金繰りの見直し、金融機関対策
2~3期連続赤字となれば、融資する側の金融機関も慎重になってきますので、きちんと資金繰りを見直してシミュレーションすることが大切です。
決算書をきちんと見ている中小企業は多いですが、意外と月次決算や月次キャッシュフロー管理ができていない会社は多いため、これらをきちんと管理しましょう。
加えて、銀行対策として、デッドIRを作成します。
デッドIRとは、資金の借り手(自社)が銀行に対して、財務状況はもちろんのこと、将来の事業戦略や財務戦略などを可視化し、情報を提供することです。
なぜ今赤字なのか、将来的にどういう風にして黒字に転換させていくのか、ということは説明が必要です。
③在庫の圧縮
資金繰りを良化したり、借入金を圧縮するためには、やはり在庫が一番手を付けやすいと思います。(土地や不動産などの固定資産はすぐに圧縮が難しいためです)
在庫が多いと、資金繰りはもちろんのこと、利益にも影響を与えます。
例えば、倉庫代や減価償却費および保険料などの物件費、在庫管理のための人件費、在庫金利(在庫を増やすための銀行借り入れ分の金利)、品質低下・陳腐化による資産価値の低下などです。
④生産性の向上
赤字企業での改善として、よく見かけるのが、新聞・雑誌、文房具、電気などの経費削減です。もちろん経費削減も重要なのですが、それのみに手数をかけても効果は非常に限定的です。
大企業なら規模が大きいため、削減額も大きいですが、中小企業の場合、大した金額にならないことも往々にしてあります。
具体的事例だと、とある赤字企業の経費削減額は年間700万円程度でした。もちろん700万円の削減は重要ですが、それ以上に根本的に生産性を向上する仕組みが重要です。
ただし、生産性を向上させる仕組み(例えばITなど)を導入するには、ある程度の投資も必要です。その場合、事業再構築補助金などの各種補助金を活用することを推奨します。
リーパスでは、補助金のプロが多数在籍していますので、ご興味あればお問い合わせください。
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第3段階:恒常的赤字(あるいは債務超過の危険水域にある)
そして最後に、第3段階目となる、恒常的な赤字が発生している、あるいは債務超過の危険水域である(もしくは既に債務超過である)場合は、倒産リスクが非常に高いため、早急な経営改善が必要です。
また、このケースにおいては、自社のみでどうにかなる問題の方が少ないです。
とある四国の債務超過の中小企業支援に携わったことがありますが、人員削減など、手をつけたくない内容も当然あります。
第3段階では、再生に目を向けなければなりませんから、外部の機関に入ってもらうことを推奨します。
具体的には以下のような内容です。
・(取引先金融機関、再生支援協議会、コンサルタントなど外部の力を借りた上での)人員削減、事業撤退、借入のリスケジュール、事業再生計画の早期策定とアジャイル実行
取引先銀行、再生支援協議会、コンサルタントなど外部の力を借りる
一定の支援条件はありますが、再生支援協議会や再生が得意なコンサルタントに相談することを推奨します。
具体的には、役員の私財提供による債務圧縮などによる金融機関のリスケジュール(返済期間変更)、再生計画の作成など、案件に応じて効果的な手法を選択し、組み合わせることにより事業再生の支援をしてくれるケースもあります。
中小企業再生支援協議会は、各都道府県に設置されていますので、問い合わせを推奨します。
また、私が携わった四国の案件では、残念ながら人員削減と事業撤退の支援を行いました(すごく辛い仕事です)。
やはり経営者自身で、そのようなことを実施するのは、感情もあるので、外部に依頼することがあるのでしょう。
削減必要人数のシミュレーションおよび算出を行い、弁護士と相談しつつ進めるという具合です。
ただ、この四国の案件のケースでは、債務超過で再生も困難という状況だったものの、古い付き合いの顧客が買い取ったという結論でした。
いかがでしたでしょうか。
赤字の背景や要因をしっかりと分析・把握し、赤字の段階別に応じて採るべき対策は異なるという点をご理解いただけたと思います。
リーパスでは、企業再生の経験のあるコンサルタントも在籍しているため、ご要望などございましたら、お気軽にお問い合わせくださいませ。
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