中小企業診断士登録養成課程の実習内容について卒業生が解説

中小企業診断士の長谷川 祐介です。私は、なかなかインターネット上に情報の少ない、中小企業診断士登録養成課程を経て、同資格と取得いたしました。

今回は、中小企業診断士登録養成課程の中でも特に「診断実習」に焦点を当てて、診断実習がどのようなものかについて話していきたいと思います。

私が実際に通った大阪経済大学中小企業診断士登録養成課程(第5期)(以下、「大経大養成課程」といいます。)を例に紹介させていただきます。

1.実習の概要

診断実習の内容

大経大養成課程においては、以下の5回の実習がありました。

・製造業経営診断実習
・流通業経営診断実習
・経営戦略策定実習Ⅰ
・経営戦略策定実習Ⅱ
・経営総合ソリューション実習

二次試験組の方は、実務補修15日間の中で、3回実習をこなす必要があるかと思いますので、それより回数をこなす必要があります。

チームの人数

診断実習ではチームとして実習に当たっていきます。
大経大養成課程では、現役の中小企業診断士を講師として迎え、1チーム8人で役割を分担し、1ヶ月かけて実習を行いました。

診断士ルートは、2次試験ルートと養成課程ルートの2つがあります。
2次試験ルートにおける実務補修では、まだチームの人間関係が形成されていない状況で進行することが多いですが、養成課程の診断実習では事前に行われる他の演習を通じて人間関係を構築した上で実習にあたることが可能なので、仲間をある程度理解できている中で、時間をじっくりかけて検討していくことができます。

2.実習の体験談

実際に担当した中小企業の概要(業種、規模、課題など)

私が実際に担当した企業の概要は以下のとおりです。
私は、主に製造業を担当しましたが、どの業種を担当するかは受講生の運次第となります。基本的に、業種は受講生の希望を聞いて選んでいただけない場合が多いようです。

実習 業種 規模 課題
流通業経営診断実習 製造業 年商15億従業員数70名 計数管理による利益重視を徹底従業員の参画意識を高め、生産性を向上
製造業経営診断実習 製造業 年商5億従業員数10名 新規事業の早期拡大
経営戦略策定実習Ⅰ 製造業 年商50億従業員数60名 従業員が全体方針を理解し、自ら考え行動する組織文化の醸成情報化推進等による生産性向上
経営戦略策定実習Ⅱ 卸売業 年商80億従業員数65名 事業の選択と集中経営基盤再整備
経営総合ソリューション実習 製造業 年商0.7億従業員数6名 ブランディングによる人と事業の成長

課題解決のプロセス

課題解決のプロセスは、一般的に以下の順序で進みます。

①現状分析(SWOT分析等)
②ありたい姿の設定
③課題の抽出
④ソリューションの提案

「①現状分析」では、今の会社を取り巻く外部環境と内部環境を、SWOT分析等を用いて洗い出し、まとめていく作業になります。
次に行う「②ありたい姿の設定」では、会社がどういう姿を目指していくべきか(本来の目標となる姿)を設定していきます。

そして、②の姿と①で出した現在の姿とのギャップ(差)が「③課題の抽出」でいうところの課題になります。

最後に、この抽出された課題に対してどういう解決策を提示してあげるか、いわゆる「④ソリューションの提案」という段階にて、実現可能な解決策を検討する、という流れになります。

言葉でいうのは簡単ですが、チーム全員が腹落ちするよう合意形成しながらすすめていくことは想像以上に時間がかったりします。

例えば、実際私がいたチームの事例では、上記プロセスにおける「②あるべき姿の設定」がなかなか定まりませんでした。
会社のあるべき姿が定まらないと、会社の課題も適切に抽出することができませんので、もちろん解決策(ソリューション)も考えることができません。
かといって、会社のあるべき姿を見誤れば、抽出する課題も解決策も的を外し、意味をなさないどころか、会社にとっては間違った方向に進んでしまう可能性もあります。つまりは、会社の運命を大きく左右させてしまう可能性すらあるとても大事なプロセスとなるため、どうしても決定に慎重性を要すこととなりました。

このように実習では、チームでの合意形成に時間がかかることも多いですが、その中で、講師からの指導を受けつつ、チーム全員で問題を乗り越えていくことが求められます。

実習の進め方

大経大養成課程では、一回の実習につき、診断先へ3〜4回程度訪問することになります。うち、最初の2〜3回はヒアリング・施設見学等、最後の1回は報告会となります。
与えられた時間を最大限活用しながら、チームの英知を結集させ、実習先の経営課題を解決でき、なおかつ、社長が明日からでもやってみたいと思えるような提案(これが重要!「ふーん」で終わってしまうのでは、あまりにももったいないです。)ができるよう検討を重ねていきます。

実習の進め方は、個々の考え方や取り組み方によって異なりますが、私の場合は以下のように進めていきました。これらを参考にして、ぜひ各自で独自の進め方を見つけてみてください。

【企業訪問前】

①:チーム内役割の決定
→班長、副班長、営業、マーケティング、IT、人事、財務など

②:相手先を取り巻く外部環境調査やビジネスモデルの理解
→業種別審査辞典やネットの情報(先方HP等)を駆使して情報収集

③:訪問時に先方の社長に質問する事項をまとめる

【1回目企業訪問後】

④:訪問で得た情報(社長の考えや会社の現状・悩みなど)を整理する

⑤:④の情報を元に、先述した課題解決のプロセスの流れを基本として解決策(ソリューション)を考える

⑥:⑤で考えた提案の内容をより固めていくために、次回訪問時に必要な先方への質問を考える

【2回目企業訪問後】

⑦:2回目の訪問で得た情報を元に、提案内容をさらにブラッシュアップし、報告書にまとめて提案する。

※私が実際に大阪経済大学養成課程で行った実習のスケジュールの一例をこちらにて詳細としてまとめておりますので、ぜひ参考にしてみてください。

日時 検討時間 企業訪問時間 計画
11/25 13:00~17:25
11/27 18:30~21:30 ①検討:外部環境分析、ビジネスモデル修正②検討:ヒアリング内容検討(社長に聞きたいこと)、いただきたい書類検討
11/29 9:00~12:30 14:00~17:00 ①検討:ヒアリング内容検討、ヒアリングシート印刷②訪問:ビジネスモデル確認、社長ヒアリング、現時点の仮説確認
12/2 9:00~17:45 ①検討:ヒアリング結果共有②検討:SWOT分析→クロスSWOT③検討:あるべき姿及び課題検討
12/4 18:30~21:30 ①検討:あるべき姿及び課題検討②検討:先方への要望事項とりまとめ、ヒアリング内容検討
12/6 9:00~12:30 14:00~17:00 ①検討:ヒアリング内容検討、ヒアリングシート印刷②訪問:社員ヒアリング(本社チームとSCチーム別行動)SCチームは〇〇倉庫視察及びヒアリング
12/9 9:00~17:45 ①検討:ヒアリング結果共有、追加提出資料分析②検討:あるべき姿及び課題ブラッシュアップ③検討:最終提言アイディア出し及び共有④検討:最終報告書作成方針共有
12/11 18:30~21:30 ①検討:ヒアリング内容検討
12/13 9:00~12:30 14:00~17:00 ①検討:ヒアリング内容検討、ヒアリングシート印刷②訪問:最終ヒアリング(営業、SC、人事、財務)
12/17 9:00~14:30 ①検討:ヒアリング内容共有②検討:報告書作成③検討:報告書内容すり合わせ
12/18 18:30~21:30 ①検討:報告書最終確認②検討:印刷
12/20 9:00~15:00 16:00~18:00 ①検討:製本(キンコーズ堺筋本町店10時)②検討:発表練習③訪問:最終報告

実習で学んだこと

実習中に学んだ点としては以下のことが挙げられます。

①ビジネスモデルを迅速かつ正確に把握すること
②ヒアリングの質を高めること
③優先順位をつけて、論点絞ること
④社長の思想を尊重しつつも、常に俯瞰的かつ中立的な立場からコンサルティングを実施すること
⑤社長の信頼を獲得すること

これらすべてが重要ですが、実務において最も重要なのは、「⑤社長の信頼を獲得すること」だと私は考えています。信頼されなければ、項目①~④をどんなに完璧にこなしたとしても、最終的には良質な提案にはつながらないからです。

3.実習の感想

実習は、大経大養成課程の中で特に重要なパートであり、最も学びが多い部分だと思います。実際に、私はもちろん、ほぼ全ての受講生が実習に高い満足度を示しました。
養成課程における実習は中小企業診断士として活躍していく上でとても有益で、将来的に資格取得後は中小企業診断士として独立したいが、コンサルの経験が少なくて不安、、、という方には特に価値のあるコンテンツであると感じました。

最新情報をチェックしよう!