「中小企業診断士資格は役に立たない?」現役診断士が徹底解説

中小企業診断士の井上です。
大阪のFMラジオ局で主に営業外勤としてキャリアを積んできました。
ラジオ業界と中小企業診断士、あまり接点はないのですが、ラジオ局の営業の仕事はクライアントのマーケティングや、ブランディング、集客などの課題の本質を掴み、それに対して適切な企画の提案を行うといったケースも多いので、やっていることは近く、今までのキャリアとの親和性は高いと感じています。今後は今までの経験を活かし中小企業診断士として活躍のフィールドを大きくしていこうと考えています。

そんな私も取得した中小企業診断士の資格ですが、世間では「役に立たない」と言われることもしばしば。
なぜそのように言われるのかを考察し、また、実際のところはどうなのかについて現役中小企業診断士の立場から解説しましたので、ぜひご一読ください。

1.なぜ中小企業診断士資格が役に立たないといわれるのか

中小企業診断士資格が役に立たないと言われる理由

①知名度が低い
②独占業務がない
③資格取得後のキャリアが不透明(資格の役立て方が分かりにくい)

①知名度が低い

まず「中小企業診断士」の知名度が世間一般には圧倒的に低いために役に立たないと言われがちです。「そんな聞いたこともない資格何の役に立つの?」という風に。
また「中小企業診断士」という名前から何をする資格なのか想像つきにくい点もマイナスに働いているのかもしれません。国家資格であるのにも関わらず、少し胡散臭さ感じる人もいると思われます。

ただ、知名度の低さを憂いている中小企業診断士は多く、何とかしたいと思っている人は実際のところ多いです。
XなどのSNSで今までの中小企業診断士の型にはまらず、積極的に中小企業診断士としての活動を発信されているか方も増えてきている印象もあります。

また、リスキリング(職業能力の再開発・再教育)の流れや、株式会社日経が2023年に調査した、「取りたい資格ランキング」では1位になるなど、近年「中小企業診断士」は注目され始め、状況も徐々に変わってきていると感じています。

(出典:株式会社日経HR「日経転職版 資格と学び直しに関する意識調査」
https://career.nikkei.com/knowhow/market/002675/)

今の経済環境下では特に中小企業診断士がやるべきこと、やれることは多いです。知名度の向上は仕事受注のつながりやすさに直結します。知名度は徐々に拡大している影響もあってか、実際に受験者数、合格者数も増加しており、今後の流れとしては、

知名度向上→業務実績→更なる知名度向上→業務実績の好循環サイクル

に期待がかかる状況となっております。

②独占業務が無い

中小企業診断士の資格が役に立たない理由として、「独占業務が無い」ということもよく言われます。これに関してはある面から見れば正しいですが、別の角度から見れば正確ではないと思っています。

弁護士の判書類の作成や法律相談業務、刑事裁判の弁護人、民事裁判の代理人といった法律に関する業務や税理士の税務の代理」「税務書類の作成」「税務相談」といったその資格を有していないとその業務ができないというものが基本的にありません。
中小企業診断士が業務として行うことの多い、コンサルティング業務、セミナー講師業務、補助金関連業務などは中小企業診断士でなくてもできます。

このことを考えると確かに独占業務は無いのですが、中小企業診断士でなければ正会員になれない協会からの業務や、中小企業診断士の資格も応募要件になる公的機関の業務などは独占業務に近いものとして捉えることができると思います。これらについては後の章で詳しく述べます。

③資格取得後のキャリアが不透明(資格の役立て方が分かりにくい)

中小企業診断士の資格取得には一般的に1000時間程度必要と言われています。2次試験まで含めた合格率は3-5%程度になり、一概に比較するのは難しいですが社会保険労務士と同程度の難易度と言われることが多いです。
更に2次試験・口述試験合格後も、実務補修や実務従事が必要で、取得するのに大変な資格です。せっかく取った資格なので独立や副業で案件を取っていきたいという人は多いと思います。

しかしどうすれば案件がとれるかさっぱり見当がつかず資格を活かしきっていない診断士も多いと思います。また転職市場で有利に働いたという話もあまり聞いたことがありません。
このような状況で資格を十分に生かせてない人が多いためか令和5年に資格更新しなかった中小企業診断士は数えてみるとざっと750名程いらっしゃいました。(資格更新要件のハードルが高いこともありますが)
苦労の割にはどう活かせるのかがよく分からないところも中小企業診断士資格が役に立たないといわれる所以だと思うのですが、これに関しては資格の捉え方次第なのではないかと思います。

中小企業診断士になったら顕在化している案件がゴロゴロ転がっていてすぐ受注できる訳ではないですが、間違いなく案件をとれるきっかけにはなります。
受注には過去の経歴などから得意分野を定め、磨き、どこにアピールしていくのかなどの根本的な戦略や努力は不可欠ですが、その上で国家資格としての中小企業診断士の信頼性、診断士のネットワークなど診断士の資格が無いと手に入れられないものが必ずプラスに働きます。

案件受注のきっかけとして捉える方が中小企業診断士の資格は活かせると思います。

役に立たたないといわれる理由           筆者の実感
知名度が低い 現状では否定できず。ただ今後は改善の見通しも
独占業務が無い 独占に近い業務はある
資格の活かし方が分かりにくい 資格の意味の捉え方次第独立や副業の仕事受注のきっかけになりうる

2.資格取得して筆者が良かったと思うこと

前章のように「役に立たない」とも言われがちな中小企業診断士の資格ですが、私は資格取得してとても良かったと感じています。ここでは何が良かったかお伝えしていきます。

診断士資格取得して良かったと思うこと

①診断士のネットワークの強さ
②できる仕事の幅が広い
③資格取得後のキャリアが不透明(資格の役立て方が分かりにくい)

①診断士のネットワークの強さ

中小企業診断士は1次試験の科目数でもわかるようにカバーしないといけない分野が大変広いです。そのため中小企業診断士ごとに得意分野が異なることも多いです。
そのため、自分の得意分野でない案件がきた場合、その分野の得意な他の中小企業診断士に仕事をつないだりとチームを組んで案件にあたることは多いです。他士業に比べ、同業内でのライバル感が薄く、むしろ提携先と捉えている人は多いです。

また実務補習や養成課程などで同じ苦労をした同志感もあり、これらのことから診断士同士のネットワークは、他士業に比べてかなり強いと思います。
診断士同士のネットワークからビジネスに繋がることもありますので、非常にありがたい状況だと感じています。ただネットワークが強すぎて、悪い噂も伝わりやすいということもあるようですが。

②できる仕事の幅が広い

中小企業診断士には独占業務はありませんが、それは逆に言えば様々な分野の切り口で仕事ができるということです。中小企業の抱える課題は多岐に渡るので社会人経験のある方は、今までやってきた業務を強みにできる可能性が高いです。
そのため、他の士業に比べ過去のキャリアや経験を活かせる割合は相当高いです。

他の士業はできるだけ早いうちにその資格を取って、業務をこなしていくことが優位性を生んでいくと思いますが、中小企業診断士はある程度社会人経験を積んでからでも独立成功のチャンスはあるので、年齢の壁が比較的薄い士業と言えます。この点も中小企業診断士資格の魅力に感じている点です。

ただ、業務範囲が広いため、支援内容によっては弁護士、税理士、社会保険労務士など他士業の独占業務を侵害する可能性があるのでその点は注意が必要です。

③他の士業との連携

中小企業診断士は業務のカバーエリアが広いため、専門性の高い他の士業と連携することでより高度なサービスをクライアントに提供することができます。

また逆に 弁護士や、税理士、社会保険労務士などが顧問先の企業の経営コンサルティング的な業務を行っていることも多いのですが、そこで中小企業診断士の見識を活かせることも実は多いのではないかと思っています。

実際、他士業の方が経営コンサルティングニーズを満たすために診断士とのWライセンスを取得されるケースは多いです。
このような他士業との親和性の高さも中小企業診断士の魅力の一つだと思っています。
他の士業と交わることは大きな刺激となりますし、うまくいけば仕事の幅や案件がふえることにもつながるでしょう。

中小企業診断士の良い点 具体的メリット
診断士のネットワークの強さ ビジネスに繋がることも
できる仕事の幅が広い 今までのキャリア・経験が活かしやすい年齢の壁も比較的薄い。
他の士業との連動・連携がしやすい 他士業との交流による刺激仕事の幅・量が増える可能性

3.中小企業診断士だからできる仕事、資格が有利に働く仕事

先の章で中小企業診断士には独占に近い業務があるとお伝えしましたが、ここではそれらの業務ついて詳しく述べていきます。

中小企業診断士だからできる仕事、資格が有利に働く仕事

①協会からの仕事
②他の診断士からの発注
③公的業務
④隠れた?独占業務 産廃診断

①協会からの仕事

各都道府県にある中小企業診断協会に入会すると、協会として受託した仕事を協会員の中で公募されることがあります。仕組みは各協会によって違っており、大阪や神奈川は協会とは別にコンサルファーム的な組織を立ち上げていますし、京都では有償の案件が案内される会員とされない会員と2つの会員種類があったりします。

案件数や案件受注の競争率などは各都道府県によって違いはあると思いますが、これらの業務は基本的に(協会に加入している)中小企業診断士しか受注できません。

②他の診断士からの発注

仕事の案件は実績のある中小企業診断士に集中しがちです。
キャパシティ的にオーバーしているタイミングや、あまり得意でない分野の案件だったりする場合、他の診断士にその案件を紹介したり、チームで対応したりすることが多くあります。
このような他の診断士から案件も中小企業診断士の仕事受注のルートとして大きなものの一つとなります。

このルートで仕事を取るには診断士が集まる会合などで常々自分の実績や、できる事、得意分野などを積極的にアピールしておくことが重要です。

③公的業務

国や地方自治体といった行政機関や関連期間、中小企業基盤整備機構、都道府県等中小企業支援センター、商工会議所・商工会など公的機関から「窓口相談」や「専門家派遣」などの公募がかかることがあります。
これらも中小企業診断士として受けやすい案件です。

こちらは中小企業診断士だけでなく、他の士業も含めて専門家として募集されることが多いです、公募案件の募集はその機関のHPなどで告知されます。診断協会に加入していれば情報として共有されることもありますし、J-NET21の支援情報ヘッドラインで検索すればヒットすることもあります。

いずれにせよ情報に網を張っていないと募集を見逃すことになります。

公的機関の業務は独自で企業と契約するより単価が安いケースが多いですが、実績作りや、収入の安定化にはすごく適しています。
条件が良いものほど競争率が高くなるのは言うまでもありません。

④隠れた?独占業務 産廃診断

産業廃棄物収集運搬業を行うには各都道府県に許可申請が必要です。

不法投棄などの問題を起こさないように、社歴が浅い会社や財務状況や経営状況の良くない会社には経営診断書の提出を求められることがあります。

この経営診断書は中小企業診断士もしくは公認会計士が作成する必要があり、診断士の仕事の中で一番独占業務に近いものです。
ただこちらは都道府県によっては提出不要のところもありますので、活動される地域によってこの案件を受注できるかどうかは大きく左右されます。

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