PEST分析とは?目的、やり方について分かりやすく解説!

こんにちは、松井と申します。

今回は、外部環境分析を行う上で有効な、「PEST分析」について解説していきます。

PEST分析とは?

PEST分析は、企業や組織が戦略を立てる際に外部環境を評価するためのフレームワークです。

PESTというのは、外部環境を大きく以下の4つの要因に分けた際の、

Political(政治的要因)」
Economic(経済的要因)」
Social(社会的要因)」
Technological(技術的要因)」

これらの頭文字を取ってPESTと言います。
これらの各要因を分析することで、ビジネスに影響を与える外部環境を理解し、戦略を適切に調整することができます。

PEST分析のポイントとしては、P・E・S・Tそれぞれ4つに整理する事象が、自社にとってプラス・マイナスどちらに影響するかを考えながら整理することにあります。

要因 内容
Politics
(政治的要因)
・政治の動向、法律や官庁の通達、業界団体の内規など。また、戦争なども戦略に大きな影響を及ぼす要因となる(例):政府主導による感染症拡大防止のための外出規制は、飲食店を始めとした対面事業にとってはマイナス要因となる一方で、オンライン事業等にはプラス要因となり得る。
Economics
(経済的要因)
・インフレ、デフレ、景気の動向や為替・金利などの金融状況など。(例):円安が進んだ場合は、輸入販売企業にとってはマイナス要因だが、輸出販売企業にとってはプラス要因となる。
Social
(社会的要因)
・流行、価値観、生活様式、人口構造の変動、宗教・倫理など人々の行動、購買に影響を与える要因。(例):日本の少子高齢化は、高齢者向けビジネスを展開する企業にとってはプラス要因となり得るが、若者向けビジネスを展開する企業にとってはマイナス要因となる。
Technology
(技術的要因)
・技術革新、ITの発達、自社、業界に影響を与える技術的な要因など。(例):AIの発展によって、経費の削減等プラス要因につながる企業もあれば、ビジネスごとAIにとって変えられるなどマイナス要因となり得る企業もある。

(出所)「マーケティングの実践教科書(池上重輔著、日本能率強化マネジメントセンター)」

3C分析、SWOT分析との関係性

次に環境分析の際に同じくよく使われることの多い3C分析、SWOT分析との比較、関係性についてお話ししていきたいと思います。

3C分析との関係性

まずは3C分析とPEST分析の関係性についてお話ししていきます。
3C分析は、企業が経営戦略を考える際に、重要な要素として、

・自社(Company)

・顧客(Customer)

・競合(Competitor)

の3つの視点から分析する方法で、それぞれの英語表記における頭文字を取って3C分析と言います。

3C分析は、企業の内部および競合と顧客という比較的近い範囲を分析し、自社の強みや弱み、競合他社との違い、顧客のニーズを理解・分析するために使われます。

<3C分析の例>

あなたの会社が新しいスマホを販売しようとしています。販売にあたって以下を調べていきます。
①顧客が求めている機能・ニーズ(顧客)
②自社の技術力やブランド力(自社)
③競合他社のスマホの特徴(競合)

これに対して、PEST分析は、企業の外部環境を広い視点で分析します。政治的、経済的、社会的、技術的な要因を理解し、それがビジネスにどう影響するかを考えます。

<PEST分析の例>

先ほどと同じあなたの会社がスマホ市場に参入する際に、以下の4つの面から外部環境を調べていきます。
①政府の新しい電波規則など(政治面)
②現在の経済成長率など(経済面)
③消費者のスマホ使用のトレンドなど(社会面)
④新しいテクノロジーなど(技術面)

結論

3C分析とPEST分析は、互いに補完し合う関係にあります。
3C分析は、企業の内部と顧客、競争環境という比較的直接的で近い範囲の外部を理解するために使われ、PEST分析は、さらに広い範囲の外部環境の影響を理解するために使われ、両方を組み合わせることで、企業はより包括的で効果的な戦略を立てることができます。

SWOT分析との関係性

次にSWOT分析とPEST分析の関係性についてお話ししていきます。
SWOT分析は、企業の現状を分析する際に使うフレームワークで、大きく自社内部の現状と自社外部の現状に分けられ、

・(Strong):(自社の)強み

・(Weak):(自社の)弱み

・(Opportunity):(外部の)機会やチャンス

・(Threat):(外部の)脅威

の頭文字をとってSWOT分析といいます。

結論

PEST分析は、SWOT分析における「機会」と「脅威」を見つけるためのツールとして使われます。

PEST分析で外部環境を詳しく理解することで、SWOT分析の精度が高まり、より効果的な戦略を立てることができます。
また、現状分析を行う際にこれら2つを組み合わせて分析する場合については、以下の流れで使うと効果的です。

【PEST分析とSWOT分析の組み合わせの流れ】

ステップ1.PEST分析を先に行う
PEST分析を行い、外部環境(政治、経済、社会、技術)の状況を詳しく分析します。
ステップ2.SWOT分析を行う
PEST分析の結果を使って、それらの外部環境がそれぞれ自社にとって「機会(プラスの要因)」となるか「脅威(マイナス要因)」となるかを判断し、SWOT分析にて統合します。

(事例1)「自動車業界」におけるマーケティング戦略に向けたPEST分析

自動車業界におけるPEST分析例

それでは実践的に、まずは「自動車業界」をテーマにPEST分析を行なってみます。
以下が自動車業界のPEST分析の例です。(今回はボリュームの都合上あくまで一部のみの例示になります。実際にはさらに多くの例示が考えられます。)

要因 例示
Politics
(政治的要因)
排ガス規制:自動車メーカーにとってエコカー(電気自動車、ハイブリッドカーなど)の開発を促進する要因になります貿易政策(関税、輸出入規制):輸出入に関係するため、海外市場戦略に影響を与えます
Economics
(経済的要因)
経済成長率:経済が低迷すると、高額商品の自動車販売への影響は大きくあります

消費者の購買力:所得水準の変化は高級車と廉価版の需要バランスに影響を与えます

円安:輸出入に係る部分に大きな影響があります。

Social
(社会的要因)
高齢化社会:安全性が高く運転しやすい車への需要が高まります

環境意識の高まり:消費者は燃費の良い車や電気自動車を選ぶ傾向が高まります

Technology
(技術的要因)
技術革新、新技術の採用:自動運転技術や電気自動車技術の進化は、自動車業界の競争環境を大きく変化させます。コネクテッドカー(インターネット接続車)の普及も進んでいます。

PEST分析を元にしたマーケティング戦略への展開イメージ

マーケティング戦略への展開を考える際、本来STP分析を経る必要があるのですが、PEST分析で得た情報をもとにマーケティング展開をするイメージをわかりやすくつかんでへいただくため例示します。
この事例では、展開が分かりやすい様に一般的(簡単)なマーケティング・ミックス(4P)の展開イメージを例示しています。

要因 展開イメージ
Politics
(政治的要因)
プロモーション:エコカーの需要増加に対応すべく、環境に優しい車種の提供と、エコ技術のアピールを強化する

価格戦略:政府の補助金や税制優遇を活用した購入方法、価格提示を具体的に分かりやすく提示する

Economics
(経済的要因)
製品戦略:経済状況に応じた価格帯の商品ラインナップを拡充し、所得水準別のプロモーションを展開する

価格戦略:ファイナンプランやリース契約を充実させ、購入を促進する

Social
(社会的要因)
製品戦略:高齢者向けの機能(自動運転補助、事故防止システムなど)が充実した製品を開発する

プロモーション:環境に配慮したブランドイメージを強化し、持続可能な技術を保有することをPRする

Technology
(技術的要因)
製品開発:最先端技術を採用した車種を開発する

製品開発:技術革新を取り入れた新サービス(例:自動駐車システム)の提供を強化する

(事例2)「喫茶店経営」におけるマーケティング戦略に向けたPEST分析

喫茶店経営におけるPEST分析

次に、自社での展開をイメージしていただくために、身近な「喫茶店経営」をテーマに解説、例示します。

要因 例示
Politics
(政治的要因)
・消費税の増加:消費税の増税は飲食店の価格設定や消費者の支出に影響を与える

・食品安全規制:食品衛生に関する法律や規制の遵守が求められる

Economics
(経済的要因)
・経済成長率:経済の成長が鈍化している場合、消費者の支出が抑えられる可能性がある

・物価の上昇:コーヒー豆やミルクなどの原材料価格が上昇すると、コストに影響する

Social
(社会的要因)
・ライフスタイルの変化:健康志向の高まりに伴い、オーガニックやフェアトレードのコーヒーの需要が増加する

・都市化:都市部での一人暮らしや仕事帰りのカフェ利用が増加する

Technology
(技術的要因)
・デジタル決済の普及:キャッシュレス決済の導入は顧客の利便性を向上させる

・SNSの活用:SNSでのプロモーションにより、口コミや評判を広めることが可能になる

PEST分析を元にしたマーケティング戦略への展開イメージ

マーケティング戦略への展開についても、自社への展開をイメージいただくべく、先の「自動車業界」の事例より少し深堀したマーケティング・ミックス(4P)の展開イメージを例示します。

要因 展開イメージ
Politics
(政治的要因)
・価格戦略:消費税増税時には、価格設定を見直し、セットメニューの導入や割引キャンペーンを展開する

・社員教育:食品安全規制に対する徹底した遵守と、品質保証のための定期的なトレーニングを実施する

Economics
(経済的要因)
・コスト管理:原材料のコスト上昇に備えて、長期契約や複数の仕入れ先の確保を行う

・多様なメニュー展開:経済状況に応じて、リーズナブルな価格帯のメニューとプレミアムなメニューの両方を提供する

Social
(社会的要因)
・ヘルシーメニュー:オーガニックやフェアトレードのコーヒー、ビーガン対応のフードメニューなどを導入する

・居心地の良い空間:一人でのんびり過ごせる席や、仕事ができるスペースを提供する

Technology
(技術的要因)
・キャッシュレス対応:クレジットカードやQRコード決済に対応し、顧客の利便性を向上させる

・SNSマーケティング:SNSで店舗の雰囲気やメニューを発信し、フォロワーとのコミュニケーションを強化する

自社にとってのプラス・マイナスの評価を考える

STP分析によって、プラス・マイナスの評価は変化する

冒頭に申し上げた通り、PEST分析のポイントは、自社にとってプラス・マイナスどちらに影響するかを考えながら整理することにあります。
しかし、外部環境は自社が目指すマーケティング戦略によってプラス・マイナスどちらにでも影響します。

例えば、自動車を販売するとして、円安の場合、日本国内向けに輸入販売を行うとしたら円安はマイナス要因(脅威)となる一方で、海外向けに輸出販売を行うとしたらプラス要因(機会)となり得るということです。

STP分析で「こだわりの喫茶店」を目指す場合の評価例

それでは実際に、あなたがSTP分析を元に「こだわりの喫茶店」が儲かるのではないかと考えました。
その時のPEST分析とそれに対するプラスマイナスの評価をしてみましょう。

STP分析…自社がどの領域を狙ってマーケティングしていくかを選定する上で有効なフレームワーク。
詳しくはこちらで解説していますのでぜひご覧ください。(要リンク)

「こだわりの喫茶店」のSTP分析

・「目指すお店像」:こだわりの味・空間を届ける街の喫茶店
・「集中マーケティング」:品揃えより、こだわりで高単価のコーヒーを届けることで、競合と差別化し、売上高の向上を目指す
・「顧客像」:増単価1000円/杯のこだわりのコーヒー、読者や音楽鑑賞できる空間を求める人

<STP分析の評価>

要因 例示 評価(プラス・マイナス)

Politics
(政治的要因)
消費税の増加:消費税の増税は飲食店の価格設定や消費者の支出に影響を与える ×:高めの単価を許容する顧客像でも、消費税増税は来店数の減少、単価の減少が起きる可能性があります
食品安全規制:食品衛生に関する法律や規制の遵守が求められる :こだわりのコーヒーを提供するお店の場合、元々品質管理を徹底しているため、競合との差別化が強化されると想定します

Economics
(経済的要因)
経済成長率:経済の成長が鈍化している場合、消費者の支出が抑えられる可能性がある ×:経済成長の鈍化は、消費時増税同様、来店数の減少、単価の減少が起きる可能性があります
物価の上昇:コーヒー豆やミルクなどの原材料価格が上昇すると、コストに影響する :コスト高から価格増加につながりますが、顧客との関係性ができており顧客が納得できる説明ができれば、顧客減少につながらず売上拡大、利益維持(・拡大)とすることが可能です
Social
(社会的要因)
ライフスタイルの変化:健康志向の高まりに伴い、オーガニックやフェアトレードのコーヒーの需要が増加する都市化:都市部での一人暮らしや仕事帰りのカフェ利用が増加する 共に〇:こだわりの味、空間を売りにしているお店ですのです、競合との差別化を更に高められる可能性があります(品揃えを絞る戦略としている場合は、製品戦略の見直しが必要になります)

Technology
(技術的要因)
デジタル決済の普及:キャッシュレス決済の導入は顧客の利便性を向上させる
:こだわりを持つ顧客は、デジタル決裁などにも興味をもつ場合が多く、導入は顧客拡大の要因になると思われます
SNSの活用:SNSでのプロモーションにより、口コミや評判を広めることが可能になる :これはお店のブランディングによると思われます。隠れ家的空間を演出している場合などは発信方法に考慮が必要になります

PEST分析の理解は進みましたでしょうか?
最後のお話、PEST分析をSTP分析後にPEST分析の各内容が自社にとってプラス・マイナスに働くかを評価することは、環境分析の他フレーム(3C、SWOT)についても、同様の方法で精度をあげることができます。ぜひチャレンジしてみてください。

<その他参考文献>
「よくわかるこれからのマーケティング(金森努著、同文館出版)」
「マーケティングの基本(安原智樹著、日本実業出版社)」

この記事を書いたコンサルタント

中小企業診断士

松井 規雄

1992年大学卒業、某インフラ企業に就職。主にマーケティング、営業分野に従事。2004年、経済学修士取得(マーケティング専攻)。2024年、中小企業診断士取得。現在、関係会社に取締役として出向、管理部門と成長戦略を担当。  中小企業経営者(後継者含む)向け経営塾のマーケティング講師として、約10年約200名のマーケティング戦略作成の指導経験を通じ、中小企業の営業課題解決に向けたノウハウを蓄積させていただいています。

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