初めまして、社会保険労務士&中小企業診断士の芦谷と申します。
今回は、中小企業の人事や研修を担当されている方には特に見ていただきたい「人材開発支援助成金」について補助金実務のプロが解説していきたいと思います。
はじめに
なぜビジネススキルの向上が必要なのか?
現代のビジネス環境は、技術革新と市場の変化が激しく、企業や個人が生き残るためには、スキルの継続的な更新が不可欠です。
特に人手不足が叫ばれ、今いる人材でのやりくりが求められています。そうした中で、教育に投資を行う必要性が高まっています。
ただ、CSR企業総覧によると、人材への投資金額は1人あたり5万6627円と高止まりしており、人材への投資とコストバランスが求められています。
こうした問題に、研修で使える助成金を紹介させていただきます。是非この機会に活用を検討されてみてはいかがでしょうか?
1:「人材開発支援助成金」とは何か
人材開発支援助成金は、厚労省が実施している助成金の1つです。
企業が従業員の職業能力開発や教育訓練、研修などを実施する際に、その費用の一部を国が助成する制度です。この助成金は、企業が従業員のスキル向上や生産性向上を目的に行う教育・訓練を支援し、労働者のキャリア形成を促進することを目的としています。
また、この助成金は、特に中小企業に手厚く、従業員一人当たりの研修費用だけでなく、研修中の給与の一部も支援対象となります。研修の種類はリーダーシップ育成、ITスキル向上、新市場開拓など多岐にわたります。
2:人材開発支援助成金を活用するメリット
①受講料の大幅な削減
メリットとして、まずはなんといってもかかる実質的な費用の大幅な削減です。
助成金を活用することで、研修費用の大部分が補助され、企業や個人の直接的な負担が大きく減少します。これにより、資金面でのハードルが低くなり、より多くの研修に参加することが可能になります。
②継続的な学習機会
また、研修や学習については、一回で終わるものではなく、環境の変化に合わせて随時最新の知識、スキルを得ていく必要があります。そのため、継続的に学習や研修の機会を提供していく必要がありますが、国の支援を受けることで、定期的に最新のビジネススキルを身につける機会を持つことができ、組織全体のスキルレベルの継続的な底上げが期待できます。
③キャリアパスの拡大
また、新しいスキルを習得することで、キャリアの選択肢が広がります。
昇進はもちろんのこと、新しい職種への挑戦が可能になり、個人の職業生活に新たな展望をもたらすことができます。
やりたい職種に挑戦することで結果的に仕事への充実感や意欲につながるといった効果も期待できます。
3:人材開発支援助成金のデメリット
人材開発支援助成金の受給を進めていく上では、事前に労働局へ研修概要の説明を行う必要があります。
会社の就業時間中に研修に参加するケースもあるため、周りの同僚に迷惑が掛かることもあります。これに加え、会社を通しての申請となるため、社内の研修担当者、上司、同僚などにしっかり研修の意図を伝えて、協力してもらう必要があります。
また、雇用保険料を原資とした助成金となるため、会計検査院の検査対象となることがあります。一部の民間研修会社では、助成金の不正受給を勧めるなど本来の使い方とは意図しない形のリスクが生まれてしまうことがあります。
そのため、社会保険労務士など専門家のアドバイスを交えて、活用されることをおススメします。
4:助成金の申請プロセス
助成金の申請には、事前の計画が必要です。必要な書類には、研修プログラムの詳細やシラバス、参加者のリストなどが含まれます。申請は、地域によって担当する労働局を通じて行われ、審査期間を含め数ヶ月かかることがあります。

4:助成金の金額
ここでは、一例として人材開発支援助成金の中の「事業展開等リスキリング支援コース」についてご紹介します。
①講座などの経費に掛かる助成
こちらの助成金についてですが、最大75%が支援されるというかなり大きな補助となっています。
例えば、40万円の講座を受講したら、30万円が国から助成金が支給され、実質10万円だけの負担で済みます。
②講座を労働時間内に受講した際の助成
9時~18時で働いている方が、午前中に研修を受けた際、1時間当たり960円の助成金を受け取ることができます。特にパートや若手のキャリアアップにつながりやすいといえます。
その他にも、
IT人材育成に向けた「人への投資促進コース」、
長期に休暇を取得して専門学校などに通学する「教育訓練休暇等付与コース」、
有期契約労働者のスキルアップを目的とした「人材育成支援コース」
など幅広くコースが設けられています。また、毎年制度が変わりますので、随時、どういった制度が自社に適しているか考えるきっかけにもなります。
コース名 | 対象者 | 経費助成率 | 賃金助成 |
事業展開等リスキリング支援コース | 雇用保険に加入している正社員など | 75%(60%) | 960円(480円) |
人への投資促進コース(情報技術分野認定実習併用職業訓練) | 高度なデジタル人材育成に向けたITエンジニアなど | 65%~75% | 760円~960円(380円~480円) |
教育訓練休暇等付与コース(教育訓練休暇制度) | 雇用保険に加入している正社員など | 30万円~36万円 | ー |
人材育成支援コース | 正社員だけでなく、正社員を目指す有期雇用労働者なども含む | 45%~100% | 760円~960円(380円~480円 |
5:実際の成功事例
あるリフォームの施工会社では、屋根裏からの水漏れ工事については目視点検で漏水個所を探していました。目視点検するには、足場を組んで作業する必要があるため、コストもかかりますし、足場に上っての作業は危険も伴います。
そこで、ドローンの操作技術を学ぶことで、点検作業を楽にしたいという相談がありました。ドローンスクールは1人あたり30~50万円のコストが掛かるため、中小企業にとっては大きな負担です。そこで、助成金を活用することでコストを10万円ほどに下げることができました。
今では赤外線カメラを搭載したドローンを活用することで、足場が無くても水漏れ箇所を特定することが可能になりました。
まとめ
適切な教育は、従業員のビジネススキルを向上させるとともに、会社の生産性向上にもつながることができます。教育に掛かるコストを抑えるためにも助成金の活用は、人事担当者が必ず押さえておくべきポイントといえます。
当サイトを展開する「リーパス」では、人材開発支援助成金の申請についても、中小企業診断士を始めとしたプロフェッショナルが全力でサポートしますので、現在、検討されている企業、事業者の方は、ぜひお気軽にご相談ください!
