健康経営優良法人、人的資本経営を目指す際に最初に整理すべきポイントについて(安全配慮義務等)

当レポートは、健康経営優良法人の取得(継続)や、人的資本経営を目指すご担当者さまに、関係する主な取組みの整理、その中で法的責任が伴う安全配慮義務に関する基本事項について説明していきます。

人手不足の中、採用に有効と言われる健康経営優良法人の認可・取得を考える企業が増加しています。健康経営の取組みを考える際、経営方針としては同じカテゴリーに入る人的資本経営との違いに迷われた方はありませんか?

また、従業員の心身と安全を守るために配慮すべき義務を法令化した安全配慮義務について、企業として踏まえておくべきポイントを悩まれている方もあるかと思います。そういったお悩みへのヒントとして書かせていただきます。

取組みの目的、定義、改善例

取組み 定義 目的 主な改善策
健康経営 経営方針 従業員の健康管理を戦略的に実践する経営アプローチ ・従業員の活力向上・生産性向上・業績向上の促進 ・健康プログラムの提供・ストレス管理・職場環境の改善
人的資本経営 経営方針 従業員を資本として捉え、能力やスキルを最大限に活用する経営アプローチ ・従業員の能力向上・生産性向上・組織の競争力強化 ・教育・研修プログラムの充実・キャリア開発のサポート・適切な報酬体系の構築
ウェルビーイング 従業員の状態 身体的・精神的な健康と幸福感を総合的に考慮した状態 (従業員の)
・幸福感
・生活満足度の向上
・ワークライフバランスの促進・心理的サポート・健康プログラムの提供
ストレスチェック 評価 従業員の状態を評価するためのプログラム ストレスの早期発見と適切な対応を支援ワークエンゲージメント向上により仕事へのモチベーション向上 ・定期的チェック・結果分析・改善策の実施
社員アンケート 評価 従業員の満足度、モチベーション、ストレスレベルなどを評価 ・組織の課題や改善点を特定・組織の方針や施策の改善・従業員の満足度向上 ・調査設計・フィードバック・改善策の実施
安全配慮義務 法的責任 雇用主が従業員の安全と健康を保護する法的責任 ・労働環境の安全性を確保 ・安全対策の強化・適切な設備の提供・教育、トレーニングの実施

健康経営と人的資本経営の相違点

生産性を向上させる経営方針である健康経営と人的資本経営について、その相違点を以下に整理します。

相違点 健康経営 人的資本経営
定義 健康投資が従業員の活力向上や生産性向上につながるという考え方 人材を「資本」と捉え、投資によりその価値を最大限に引き出す経営の視点。知識、スキル、能力などを資本として捉える
長期視点 従業員の(短期的な健康維持だけでなく)長期的な健康増進を目指す 企業の中長期的な企業価値向上に向けた人材戦略
情報開示 健康管理の取り組みやウェルビーイングに関する情報など 人材育成方針や人材戦略、実施状況など

健康経営と人的資本経営の関係性

健康経営と人的資本経営には、以下の関係性があります。
・人的資本経営と健康経営の関係: 健康(=健康経営の効果)な従業員はスキル向上に集中しやすく、企業として生産性が向上します(=人的資本経営に寄与)。
・健康経営とウェルビーイングの関係: ウェルビーイングは身体的・精神的な健康と幸福感を総合的にみた従業員の状態であり、健康経営により促進されます。

安全配慮義務について

(1) ストレスチェック制度との関係性

安全配慮義務における「心」の配慮に関係する精神障害による労災請求件数の増加により、ストレスチェック及び面談の実施が事業者に義務付けられ、2015年よりストレスチェック制度が実施されました。

関係性 安全配慮義務 ストレスチェック制度
法律 労働契約法5条 労働安全衛生法66条
定義 使用者(事業者)の従業員の心身と安全を守るために配慮すべき義務を定める 従業員が働く「環境」に配慮すべき事項を定める

(2)「心身と安全を守る」ための取組み例

「心身と安全を守る」ための取組み例

① 物的施設の管理
② 人的組織の管理
③ 健康配慮義務
④ 職場環境配慮義務

① 物的施設の管理

・ 職場の設備や環境を安全に保つための管理を徹底する
・ 作業場所の危険源を排除し、適切な保守・点検を行う

② 人的組織の管理

・ 従業員の健康と安全を考慮した労働時間や休暇制度を設定する
・ 適切な指導・監督を行い、労働者の安全意識を高める

③ 健康配慮義務

・労働者の健康状態を把握し、適切な対応を行う
・必要な医療措置や休暇を提供する

④ 職場環境配慮義務

・職場の環境を改善し、ストレスや過重労働を軽減する
・災害時の避難計画や対応策を整備する

(3)安全配慮義務違反の判断基準

民事上の注意義務は、世間動向に鑑みて、より高度な配慮を要求されるようになっており、その結果、会社に多額の損害賠償義務を認定する判決が増えています。

安全配慮義務違反の判断基準

① 予見可能性
② 結果回避可能性

① 予見可能性

・事前に予測できる危険を避けるための措置を講じるべき
・予見可能なリスクを無視することは違反となる

② 結果回避可能性

・安全配慮を講じていれば事故や被害を回避できたかどうかを判断する
・安全対策が不十分であれば違反となる

〇主な取組みの生産性への寄与、管理者の役割

今回説明する主な取組みは、それぞれ従業員の生産性へ寄与します。企業における実践では管理者が担う役割が多くあるため、それらについて以下に整理します。

取組み 生産性への寄与 生産性との関係 管理者の役割
健康経営 向上に寄与 ・健康な従業員は仕事に集中しやすく、休職率が低下する・健康プログラムやストレス管理の実施により、生産性が向上する ・健康プログラムの提供と実施を監督する・ストレス管理策を導入し、従業員のメンタルヘルスをサポートする・健康的な職場環境を維持し、休職率を低減する
人的資本経営 向上に寄与 ・従業員のスキルや知識の向上により、効率的な業務遂行が可能となる・適切な人材配置と育成により、生産性が最大化する ・スキルや知識の評価と向上を促進するため、教育・研修プログラムを計画・実施する・モチベーション向上に向けたコミュケーション、フィードバック、報酬、キャリパスを支援する
ウェルビーイング 向上に寄与 ・従業員の幸福感が高まると、モチベーションが向上し、仕事に対する意欲が高まる・ワークライフバランスの改善により、疲労軽減と生産性向上が期待できる ・ワークライフバランスの改善を推進する(そのための制度設計)・チームビルディング、社内イベントなどを通じた社員間のつながりを深める
ストレスチェック 維持に寄与 ・ストレスの早期発見、適切な対応により生産性の低下を防ぐ・ワークエンゲージメント向上によりモチベーションを向上させる ・ストレス軽減策、ワークエンゲージメント向上策により従業員の生産性の低下を防ぐ
社員アンケート 向上・維持共に寄与 ・従業員の声を反映させることで、従業員の満足度向上に繋げた結果、モチベーションと生産性が向上する(逆に未反映だと低下する) ・調査結果を分析し、組織の課題を特定する・従業員の声を反映させ、改善策を実施する
安全配慮義務 維持に寄与 ・安全な労働環境を提供することで、事故や怪我のリスクを低減できる・従業員の健康を守り、生産性を維持できる ・安全な労働環境を維持するため、適切な設備と対策を提供する・従業員の健康を守り、事故や怪我のリスクを低減する・安全対策の遵守を徹底し、生産性を維持する

当リポートが、健康経営優良法人としてのステップアップ、人的資本経営の深化に向けた取組みに寄与できれば幸いです。

(参考文献)
「安全配慮義務 判例とその意義」(岡田邦夫著)
「健康経営を科学する!」(森晃爾、永田智久、小田上公法著)

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