初めまして、中小企業診断士の松井と申します。
与件に即した良い提案のはずなのに、経営者からの反応が芳しくない、あるいは厳しい意見を受けた経験は多くの方があるかと思います。経営者へ敬意を払い、寄り添った内容なのに、なぜうまくいかないのでしょうか?
私が入社してから30年以上、取引先の経営者から学んだ肌感覚や、マーケティング講師として10年間で約200社の中小企業経営者にマーケティング計画を指導してきた経験を踏まえて今回その原因について解説していきます。
早速結論ですが、その原因は大きく以下の2点に集約されると考えます。
(1)会社の背景や特性への配慮不足
(2)実践する社員に対する育成観点の不足
今回は、上記2点のうち「(1)会社の背景や特性への配慮不足」部分について、本記事にて無料公開をしています。
(※「(2)実践する社員に対する育成観点の不足」につきましては、有料限定公開予定となっています。)
「会社の背景や特性への配慮不足」の視点を踏まえた提案について
経営者への提案前のヒアリング時(雑談時含む)に、以下のポイントに対する反応を確認いただき、提案に盛り込んでいただければと思います。
①実践のしやすさ(社内浸透に向けた具体的提示)
②実践のしやすさ(フォロー方法)
③経営理念、風土に即していること
④社員の納得感
① 実践のしやすさ(社内浸透に向けた具体的提示)
これは提案(プレゼン)の当日は喜んでもらえたのに、後日実際の契約に向けた打合せの中で、採用を見送られるということにもなる事例です。
中小企業経営者への提案の場合は、経営者だけでなく幹部社員も同席される場合が多いと思います。そういった幹部社員は経営者と視野の広さ、深さが近く、課題意識も共有できている場合が多く、それに即した我々への提案への理解も深いと思われます。
しかし後日、その提案書に対して意見を求められた中間管理者が提案内容や実際に自分達がどう行動したら良いかが理解できず、経営者や幹部が自社での展開を不安視し採用を躊躇する場合です。(提案に中間管理者層が同席していたにも関わらず、その場では質問等せず、後日理解不足から反対派に回る場合もあると思いますが的共感が大事になります。しかし実行する中間管理者には、イメージだけでなく実際に自分達がどう動くべきか具体策の提示(文書による解説含む)がないと、提案内容への理解不足から反対派となり、経営者が実運用に不安を感じ、採用を見送るという場合もあります。
また採用されても中間管理者がメンバーに具体的な指示ができず、予定した効果を得られないという事態にもなりかねません。
・実際に中間管理職がどう動くかべきか具体策の提示
② 実践のしやすさ(フォロー方法)
提案書を作成する際は、以下は必須要素となります。
1:スケジュール(どのようなスケジュールで実践するか)
2:実務担当者(誰が実行するか)
3:効果の定期フォローについての詳細(効果の確認)
しかし、実際には、経営資源が限られる中小企業においては、各役員や社員が既に手一杯でなかなか実務担当者がフォローに回れないケースは多いです。
そのため、実務担当者がどのような業務に時間が取られているのかなど、現状を加味した上で、負担感の少ない手法を提案することが大事となります。
しかし多くの企業は、既に会議等で他のフォロー事項も多くもつため、新たにフォロー内容を追加することも経営資源が限られる中小企業においては高いハードルになる場合があります。
その回避方法として現在の会議等でのフォロー内容を確認し、現状を加味した上で、負担感がない手法を提案することも大事と思われます。
役員や社員の現状を加味した上で、無理のない範囲で
1:スケジュール
2:実行者
3:効果の定期フォロー
の各詳細を提案書に含める
③ 経営理念、風土に即していること
社外環境の大きな変化を考慮して、新しい製品・サービスの事業導入に関する提案を行う場合もあると思います。ここでいう風土には社風や社員の人間性も含みます。中小企業の経営者はそれらへの適用可否も踏まえ、新しい策の導入判断をする場合があるため、そこに大きなギャップがないかを事前に確認して提案することも大事になります。
しかし、提案を採用いただき、社員も新しい分野の進出に期待を寄せるにも関わらず、成果がでない場合もあります。
これは、例えば、社員のワークエンゲージメント(仕事への熱意)が高くても、新規業務へのストレスからメンタルヘルスや離職に繋がり、結果として要因不足に陥ってしまい、上手くいかなかったというようなケースになります。(人材不足の時代、最近この配慮への必要性をより感じています。)
また、「経営者=創業者」ではない場合、以下の提案も有効です。
①創業時からこれまで培われた会社の強み・良さを振り返ることで、新事業への熱意を高める提案
②創業時からの経営理念が、現状に即していないと経営者が考える場合に、新しい経営理念を作成する提案(この際、社員も巻き込んで理念を作成するのも効果的です。)
いずれにおいても、経営者に意向を確認した上で提案を行う必要があります。
・社員に新しい取り組みに必要な能力習得の機会、上司に相談できる場を作ること
・新規取り組みは、自社の強み・良さを活かせることを理解してもらうこと
・創業時の経営理念が現状に即していない場合、社員と共に経営理念を作り直すこと
④ 社員の納得感
先述のワークエンゲージメントや、①の中間管理者のメンバーへの巻き込みにも関係しますが、この提案の採用による現場社員へのメリットの提示も大事です。規模が小さい会社程、経営者や幹部社員は、社員(その先の家族まで)が身近な存在であり、当初社員に負担がかかる場合でも、それを上回る利益や効率性の向上から社員が得られるメリットへの具体的な提示(企画書への反映が難しい場合は、提案時に口頭での補足等)をすることが有効と思われます。
また採用後、実際の展開方法をつめる段階で、社員の意見を取り入れること、社員間(場合によっては部署間)での不公平感がないように留意することを提案時に触れることで、社員の納得感に配慮していることを示すことができます。
・新規取組みにおける成功により社員にとってプラスになる事項を具体的に明示すること
・新規取組みへの準備段階から社員の意見を盛り込む等、モチベーションを高めること
・新規取組みと既存事業の担当者間に不公平感が生まれない工夫をすること
以上、冒頭に示した私の経歴と共に、約20年の管理者経験、出向先の中小企業における取締役としての経験、その中で部下の育成を担い、コンサルティング会社から提案を受け決裁する立場であった経験から、これらの重要性ついて話してきました。また私自身が、顧客となる経営者へ提案する際に、これら(特に③「経営理念、風土に即していること」、④「社員の納得感」)の視点を盛り込むことで共感を得やすくなったことも当テーマを考えた理由です。
中小企業経営者への提案で留意したいもう1点、「(2)実践する社員に対する育成観点の不足」についても興味をもって下さった方は、(有料)コンテンツとして今後掲載予定ですので、公開されましたらぜひご覧ください。